アジアにおける「知識外交」と高等教育の国際化に関する実証的研究(科研費基盤(A)15H02623 代表:北村友人)(平成27年度〜平成31年度)

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アジアにおける「知識外交」と高等教育の国際化に関する実証的研究(科研費基盤(A)15H02623 代表:北村友人)(平成27年度〜平成31年度)

研究の目的

 本研究は、アジアにおいて高等教育の国際化が「知識外交」 に対してどのような影響を及ぼしているのか、 定性的研究と定量的研究を組み合わせて実証的に明らかにすることを目的としている。

 そのために、国レベルにおける高等教育の国際化が国家による「知識外交」の展開やそのインパクトに対してどのような影響を及ぼしているのかを検証するとともに、アジアの地域・サブ地域レベルでも高等教育の国際化によって 「知識外交」 がどのように促進(あるいは阻害)されたり、そのインパクトがどのような形で具体的な現象として立ち現れているのかを明らかにする。

 それらの結果を踏まえ、高等教育の国際化が進展するなかで大学が有する知的・人的・物的な資源が「知識外交」にいかなる役割を果たしているかを解明し、国際高等教育と「知識外交」に関する理論的な枠組みを構築する。

研究の背景

 知識基盤社会と呼ばれる今日の国際社会では、「知」の創出・獲得・発信において優位を得るために多くの国家が学術活動や研究開発への投資を競うように増大させている。それらの国のなかには、科学研究や知的生産が外交政策の重要な柱に位置付けられているケースがしばしば見られる。

 こうした「知」の国際競争は、国際社会における国家の政治的ならびに経済的な優位性を確立させるうえで重要な要因となっていることは、 Joseph S. NyeJr.による「ソフト・パワー」 や 「スマート・パワー」に関する研究で指摘されてきた通りである。

 また、近年、世界各地の大学が国際化を進め、研究者や学生たちの国際的な移動が活発化するなかで、これらの人々が果たす文化的な「外交官」としての役割が重要度を高めている。 加えて、留学生のなかには自国へ帰国した後に、 政治、経済、文化などの諸分野で指導的な立場に就いている者も少なくない。
これらの現象は「知識外交(Knowledge Diplomacy)」とその影響として捉えることができるが、こうした概念は、Michael Ryan (1988)をはじめとする国際政治学や国際関係論の研究者たちが主導する形で 1990 年代から議論されてきた。 そして、 先進諸国を中心に、より戦略的な「知識外交」あるいは「科学外交 (Science Diplomacy)」 を推進することが、国家の国際的な競争力の維持・向上のために不可欠であることが広く認識されるようになった。

 日本でも1995 年の科学技術基本法の施行によって「科学技術創造立国」の旗印を掲げ、産官学の連携による科学技術振興が目指されてきた。諸外国においても、2010年にはロンドン王立協会が『科学外交の新領域-権力バランスの変容を導く-』 という報告書を出したり、2012年にカナダの国際教育戦略に関する諮問委員会が報告書『国際教育-カナダの将来的な繁栄の原動力ー』をまとめるなど、「知識外交」を強化することが将来的な国力の増強に繋がると考えられている。
ただし、こうした「知」をめぐる国際競争は、学術の公共性や学問の自由といった伝統的な価値観を揺らがせる要因ともなっていることに留意する必要がある。 とくに、 知的生産活動の拠点である高等教育機関には多大な影響が及んでおり、 大学の自治をはじめとする高等教育機関の基盤に対して問い直しを迫られるような状況が散見される。

 とりわけ、近年、大学の国際化が非常に活発化するなか、 学術的な価値観よりも政治的あるいは経済的な観点から大学に改革を迫る動きが顕在化している (上山隆大 (2010)の「アカデミック・キャピタリズム」論、WTOのサービス貿易協定、 WIPOによる知的財産保護に関する制度構築など)。そうした動きを加速化する要因のひとつとして、国際的な大学ランキングの影響力の増大などを挙げることができる。
このような高等教育の国際化における公共性の問題については、Knight、Marginson、Altbach Kehm, Massen, de Wit といった研究者たちが国際的な議論をリードしてきた。とくに Knight らが国際大学協会(IAU)と共同で実施した世界調査の結果は、グローバル化する高等教育市場の現状を明らかにするとともに、 高等教育の国際化が学術の公共性に及ぼす影響や課題を提示している。

 また、国内では、 塚原、山本、 羽田、 大塚、米澤などによって、高等教育の国際化が社会に及ぼす影響について、 諸外国の動向を視野に入れつつ多角的な分析が行われている。 しかしながら、 「知識外交」 に対して高等教育の国際化が及ぼす影響について、 とくに実証的に明らかにするような研究は、 管見の限り、 これまでほとんど行われてこなかった。
そうしたなか、研究代表者(北村)は主にアジア諸国における大学の国際化の現状と高等教育の公共性の問題について、 科学研究費補助金 (若手研究 (A)、 基盤研究(B)) による研究や文部科学省国際課の委託調査などを通して実証的に明らかにしてきた。 また、研究分担者らとともに国際交流基金の助成を受けて国際高等教育フォーラム 「急変する世界環境における高等教育の公的役割」 (2009年より隔年開催) を開き、 多極的なイニシアティブにもとづく高等教育の国際化のあり方について、 国内外の研究者たち(Altbach、Knight、Marginson、山本、羽田など)を招いて活発な議論を行ってきた。その成果は、
Springer 社より学術書として刊行されている (Yonezawa, et al. (2014))。

 加えて、本研究のメンバーたちは国際機関や政府関係機関による国際会議や専門家会合に数多く出席し、国内外の専門家たちとの意見交換を積み重ねてきた(アジア開発銀行主催「高等教育の地域連携」 (2010年7月)、 OECD・ 文科省共催 「高等教育のグローバル戦略」 (2013年2月)など)。

 これらの研究や議論を通して研究メンバーたちは、 多くの国・地域で高等教育の国際化が進展するなかで、大学が有する資源を「知識外交」に戦略的・効果的に取り入れていくことの重要性を強く認識し、本研究のテーマを着想するに至った。

 

アジアにおける「知識外交」と高等教育の国際化ワーキングペーパーシリーズ