東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)では、「初等中等教育における探究学習への支援プロジェクト」において、児童生徒の発意や関心に基づく探究学習に対して専門の研究者が的確なアドバイスをすることにより、探究の成果をいっそう高度で充実したものとすることをねらいに、東京大学の教員もしくは大学院生がオンラインを通じて支援・指導を行っています。
今回は、中学2年生 Yさんの「スポーツにおける男女格差」に関する探究学習を通して出てきた疑問や悩みに、バリアフリー教育開発研究センターの飯野 由里子先生がアドバイスしました。
- アドバイスした人:
東京大学大学院教育学研究科 附属バリアフリー教育開発研究センター 飯野 由里子特任教授
専門:合理的配慮 / 子どもの権利 /社会的障壁
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Yさんのご相談
女子サッカーから日本社会の問題へ
視点を広げることで見えてくる新たな探究
Series4. スポーツにおける男女格差について
Yさん:
私がこの探究活動を始めたきっかけは、小さい頃からサッカーがとても好きだったからです。自分でプレーするのも、試合を見に行くのもどちらも好きでした。私は、中学生になるタイミングで、男子の部活動に入るか、クラブチームに入るか、それともやめるかという選択に迫られました。それと同時に、観客数や盛り上がりに男女チームで差があるなとも感じていて、女子サッカーの環境を変えたいって強く思いました。チームがないなら自分で作ればいい。男女で差があるなら、女子サッカーを盛り上げればいい。そう思って、今この活動をしています。
チームの数が少ないという問題には、「12歳の壁」が大きく当てはまります。私の学校がある市内の中学校で、女子サッカー部があるのは現在3校だけです。また、私の通う地区には女子サッカー部が1つもありません。でも、私の学校は中高一貫校で、受験に合格すれば住む場所にとらわれずに、誰でもサッカーを楽しめるという良さがあります。だから、今年度はJFAとアディダスの合同プロジェクト「HER TEAMプロジェクト」に応募して、実際に女子サッカークラブを立ち上げたいと考えています。
飯野先生:
ご説明、ありがとうございます。事前にいただいたスライドに、質問が2つ書かれていたのですが、今日相談したかったのは主にその2つになりますか?
Yさん:
はい、そうです。
飯野先生:
わかりました。では、まずそのお話からしていきましょう。一つめは、「SNS(インスタグラム)開設」についてのご質問でしたね。
これは、最終的には学校の先生や保護者の方と相談して決めてもらいたい内容だと思っていますが、私の考えを少しお話しすると、「本名(フルネーム)」「顔写真」「制服姿」の公開については、できるだけ避けた方がいいと考えています。プロジェクトとして学校名を出して活動するつもりであれば学校名が特定されても問題ないかもしれませんが、そうでない場合は、制服姿から学校や個人が特定されてトラブルにつながる恐れもあります。世の中そんな悪い人ばかりじゃないよねって思いたいんですけれども、オンライン上のトラブルは増えていますので、そこは気をつけなければいけないと思います。インターネット上に一度公開された情報は完全には消せないということも聞いたことがあると思うんですよね。なので、最初から「出しても大丈夫」と確認できた情報だけを発信するように、あらかじめルールを決めておくといいですね。
次に、「どんなふうに発信すればいいか」という話ですが、まず、アカウント名は、活動の内容がわかるようなニックネームをつけるのがいいですね。研究者だと「プロジェクト名」と呼んだりしています。このニックネームやプロジェクト名は、どんな活動をしているのか、どんな未来を創りたいと思っているのかを考えながら決めると良いと思います。その時に、例えば「○○研究プロジェクト」というような固い名前にすると少し敷居が高くなって、誰も彼もがやってくるということにはならないかもしれません。逆に、「未来創造チーム○○」みたいに少しやわらかい感じの名前にすると、より広く人に届くかもしれません。それから、写真もたくさん載せると思うんですが、活動の様子や雰囲気がわかるような写真を使うのがいいと思います。最近はイラストやキャラクター、アバターも簡単に作れるので、オリジナルキャラクターを作って、活動紹介に使うというのも一つの手です。短い動画、リールで紹介すると、多くの人に見てもらえるので、そうしたときにアバターを活用するのも良い方法だと思います。
須藤先生:
ありがとうございます。1つ目の質問に対しては大丈夫そうですね。それでは、2つめの質問について、Yさんから少しご説明いただけますか?
Yさん:
はい。スポーツにおける男女格差について調べていく中で、日本がG7加盟国の中でジェンダーギャップ指数が最下位だということを知りました。そういった状況のなかで、スポーツという視点から見ると、日本にはどんなところで格差があるのかという点についてお聞きしたいです。それから、スポーツの場面で男女格差が生まれてしまうのはどうしてかということです。また、スポーツだけじゃなくて、もっと広い視点で男女格差を縮めていくために、どんな部分を改善すれば、より良い社会につながっていくのかなということをお聞きしたいです。
飯野先生:
ありがとうございます。Yさんは女子サッカーチームの方々とも交流してきたということですが、そこで格差について聞く機会ってありましたか?
Yさん:
はい。色んな交流をする中で、私自身このテーマについて考える機会がたくさんありましたし、アイデアを得ることもできました。私は、大きく分けて2つの視点から考えています。1つ目はサッカーを“見る”っていう視点で、
支援ミーティングを終えて
Yさんより:
スポーツにおける男女格差(ジェンダーギャップ)について、自分が知っていた知識や過去の経験を超えて、幅広い視点から専門的なお話を聞くことができ、とても有意義な時間となりました。男女格差は複数の要因が起因しており、歴史的要因や文化的要因という過去の出来事が今につながっているのだと思うと、さまざまな分野とのつながりを詳しく調べてみたいと思いました。教えていただいたことをもとに、今後の探究活動をもっと深めていきたいです。また、誰もが男女という性別にとらわれずに自分らしく、人生を送れるような社会にしていきたいです。改めて、貴重なお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。
飯野先生より:
Yさんが明確な活動目標を持って「スポーツにおけるジェンダー格差」というテーマを探求されている姿に、大変感銘を受けました。Yさんとの対話を通じて、小学校卒業後もサッカーを続けたいと希望する女子に対する機会が制約されている状況を表す「12歳の壁」という概念を、改めて深く認識することができました。ご自身の経験をきっかけとしつつも、それを普遍的な社会課題へと昇華させ、自分以外の人々がスポーツへの参加をめぐり経験しているさまざまな壁に関する探求を深めていかれることを心より期待しています。








