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2025.09.19
2025年9月15日(祝)に、個人研究型探究の指導者を支援する「研修プロジェクト」の第1回キックオフミーティングを、対面とオンラインのハイブリッド形式で実施しました。全国から9校・30名の先生方にご参加いただき、今後の連携と学びの土台づくりを行いました。
キックオフミーティングでは、本田由紀センター長より本プロジェクトの目的・年間計画を共有したのち、各校が探究の現状や課題、参加の狙いを簡潔に紹介し合っていただきました。
続いて上野特任講師が連携校での効果検証で明らかになった知見や探究学習の意義を考えるための視点を提示しました。

本田センター長による概要説明

上野特任講師による講義
後半は「教員自身の探究」「教育活動の中で見てきた生徒の探究」をテーマに対話セッションを行い、実践アイデアと見取りの視点を交換しながら、今後の協働課題と次回に向けたアクションを整理しました。

石黒准教授のモデレートによる対話セッション

対話セッションの様子
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今後は月次の研究会を通じて、個人研究型探究学習に関する重要なトピックについて深く掘り下げて、各校の実践につなげていきます。
写真・記録について
掲載写真は、事前に同意を得たもののみ使用しています。記録データは個人が特定されない形で取り扱います。
お問い合わせ
東京大学大学院教育学研究科附属 学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)
https://www.schoolexcellence.p.u-tokyo.ac.jp/
2025.09.15
この度、東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)では、「個人研究型探究学習に係る教員研修プロジェクト」の業務補佐(オンキャンパスジョブ)を担っていただける学生を募集いたします。
詳細は下記をご覧ください。

ポスターを表示
仕事内容
- 「個人研究型探究学習に係る教員研修プロジェクト」の定例研究会に係る補助業務
・月1回行われる定例研究会(2026年3月まで)の運営補助
・定例研究会で収集する参加者の回答フォームの集計作業および分析作業
・本プロジェクトの報告書の作成補助
- 東京大学教育学部附属中等教育学校(東大附属)における卒業研究指導の記録に係る補助業務
・東大附属での卒業研究指導の動画撮影業務
・収録した動画の編集作業
応募資格
・東京大学教育学部および教育学研究科に所属の学生(学士/修士/博士課程)
・基本的なPCスキル(Word、Excel、PowerPointなど)
・日本語でのコミュニケーション能力
募集人数
5名程度
勤務時間
月15-20時間程度
勤務地
基本在宅での作業
(業務内容に応じて、東京大学本郷キャンパスでの業務や東大附属での業務が発生する可能性もあります。)
給与・手当
・学部後期課程1,230円、修士課程1,450円、博士課程1,670円(業務内容によっては2,000円)
・交通費(本郷キャンパス以外での勤務が発生した場合)
応募方法
履歴書(東京大学統一履歴書フォーマットをご活用ください)をメールにて送付してください。
送付にあたっては、メールの件名欄に【CASEERオンキャンパスジョブ応募(氏名)】と記載ください。
応募書類送付先: c-kodoka@p.u-tokyo.ac.jp
応募締切
2025年9月27日(金)17時まで
選考プロセス
応募状況によっては、書類選考および面接を実施する場合がございます。
お問い合わせ先
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(担当:須藤玲)
Email: c-kodoka@p.u-tokyo.ac.jp
2025.09.08
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)では、「初等中等教育における探究学習への支援プロジェクト」において、児童生徒の発意や関心に基づく探究学習に対して専門の研究者が的確なアドバイスをすることにより、探究の成果をいっそう高度で充実したものとすることをねらいに、東京大学の教員もしくは大学院生がオンラインを通じて支援・指導を行っています。
今回は中学3年生 Fさんのボーカロイド音楽についての探究学習を通して出てきた疑問や悩みに、東大で現在も開講中の人気ゼミナールをもとにした『東京大学「ボーカロイド音楽論」講義』などの書籍もある、東京大学先端科学技術研究センター所属(現在は博士課程生)の、鮎川ぱて先生がアドバイスしました。以下に、ダイジェストを紹介いたします。
- 探究のテーマ:ボーカロイド音楽作品を批評する

・相談者:Fさん(中学3年生)
・探究学習の取組単位:個人
- アドバイスした人:
東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻
博士課程・東京藝術大学非常勤講師 鮎川ぱて先生
・専門:ボーカロイド、音楽評論
- コーディネーター:教育学研究科 石黒千晶准教授(CASEER)

Fさんのご相談
理論や方法よりも、「作品」そのものに向き合い
作者のメッセージや表現の意味を浮き彫りにしていく
Series5. ボーカロイド音楽作品を批評する
Fさん:
今取り組んでいる卒業論文で、ぱて先生が「東京大学ボーカロイド音楽論講義」(文藝春秋、2022年)の本でやっていたような、ボカロをテーマに合わせてピックアップして外部の資料や理論を取り入れながら1つの論を組み立てていくということをやっていきたいと思っています。その中間発表に向けては、大漠波新さんの楽曲を取り上げて、そこで表現されている「愛」とは何かについて調べているところです。ボカロカルチャーは、社会から取りこぼされた人の声だったり、思春期や青年期の葛藤だと思っているので、最終的な卒業論文はそうしたものと結びつけて書きたいと思っているのですが、まだふわっとしていて、どんな学説や文献を参考にしたらよいかなど、悩んでいます。
鮎川先生:
発表の形態やサイズ感というのは、決まっているんでしょうか?
Fさん:
中間発表はスライドで5分くらいの発表をして、最終発表は卒業論文のような文字形態です。
鮎川先生:
なるほど、わかりました。研究のテーマにするのは、1曲っていう風に考えていますか?
Fさん:
当初の予定ではいろんな曲を扱うというか、対象は特定の1曲ではなかったのですが、今の予定では1曲になりそうです。
鮎川先生:
いいと思います。例えば大漠波新さんの「あいのうた」1には、1曲だけでいろんなテーマが盛り込まれているから、メインで扱うのは1曲にフォーカスした方がやりやすくなる気はします。僕が自分の本でよくやったやり方だけれど、複数の曲を取り上げていく中でも、それぞれについて2000字ずつ書いているわけではなくて、メインとなる曲を1つどーんと真ん中に置いて、それに対して他の曲ではこういう近いことを言っている、としたり。1曲にフォーカスしたけれど、この作家にとってこのテーマは1曲で終わるものではなくて、いろんな形で掘り下げ続けているテーマなんだと思います、という風にまとめたり。 Fさんは、「あいのうた」については結構見てきている感じかな? その曲と、(メモにある同じ大漠波新さんの作品である)「のだ」2だとどっちがいいかな。

大漠波新(2023)「あいのうた」
Fさん:
テーマを愛にしたので、それが題名に出ている「あいのうた」というのはわかりやすいと思います。「あい」という表現がいろいろ歌詞にあるし、「愛」だけではない「あい」が色々歌詞に表れているから、もし1曲に絞るなら「あいのうた」がいいと思っています。
鮎川先生:
事前にいただいたメモを見せてもらったけれど、もうメモもたくさんできていますもんね。いい感じだと思います。「あい」にラブの方の「愛」と「AI」というダブルミーニングが込められているというのは、確かにこの曲の明確なコアだと思います。このことは、特殊な読みによって気づくのではなくて誰もが気づくレベルのテーマですが、それをまず素直に受け取るのはすごくいいと思います。あと、Fさんは(動画中に表示される)歌われないテキストの書き起こしもしていますね。
Fさん:
はい、MVを見ながら全部自分で書き起こしました。
鮎川先生:
発表のスタイルがどんな感じかわからないけれど、聞く人たちは、ボカロがどんなものか知らない状態なんですよね? ボカロはフィールドが動画サイトなので、①音楽 と②映像 と③言葉 という3つのレイヤーで総合的に表現をするというのが基本スタイルですが、Fさんが書き起こしたような、歌詞として歌われないMV(映像)上の文字表記にも意味を持たせるというのも表現のスタイルとしてあって、この曲はまさにそれをやっている。ボカロを知らない人からしたらこれだけでも結構新しいポイントだから、そういう表現構造になっているという説明がちょっとあってもいいかもしれないですね。

大漠波新(2023)「あいのうた」
MV上の文字表記例
Fさん:
なるほど、ありがとうございます。卒論の参考に、先生の本のそれぞれの章は、どうやって構成されていらっしゃるんでしょうか。どういうプロセスを踏んでこういった構成にしたのかをうかがいたいです。
鮎川先生:
確実に言えるのは、作品ありきで考えているということです。まず作品を中心に、批評する題材を置いて、その後にその題材にとって一番ふさわしい分析の道具や方法を後から考えるという順番ですね。道具が先行して、例えば精神分析を使いたいからこの曲を選ぶ、ではなくて、後から判断しているところがあります。ただ、これはどうしても経験値が必要で、僕はいろんな学問ジャンルに時間をかけて今に至っているから道具のストックは結構あるわけです。なので、とにかく曲を主役に、ふさわしい道具を手札のなかから出すみたいな感じにしているんですよ。Fさんは、もうすでに結構ちゃんと考えられていると思うし、方法として確立した手法を使わなくても、作品がちゃんと主役になっている批評だったら、しっかり書けるんだと思います。批評の最大の条件というのは、一次作品から離れないということです。良くない批評というのは一次作品に書いてないことを勝手に読み取って妄想することなので、とにかく作品に向き合いまくるということがちゃんとできていれば問題ないと思います。
講義でも時々話すのですが、インターネットには、“縦読み”という文化があります。本当は隠されたメッセージがあるはずだと、文章の頭を縦に読んでいくのが普通の縦読みでしょう。けれども恣意的に何文字目か決めずにばらばらに読んでいくことがある。でもそれはどう考えても強引な読み方で、自分の読みたい気持ちを無理やり対象の中に投影しているに過ぎないですよね。批評をする、対象を読むという時に、自分が持っている考えをこの作品が代弁してくれているはずだという思い込みや誘惑というのは、どうしても出てくるものだと思います。なので、自分の読みたいものを無理やり対象に見出そうとしないというのは、とにかく批評においての最大の注意点ですね。
Fさん:
あくまで批評という立場を崩さずに、その作品ありきで構成するということですよね。
鮎川先生:
作品を批評するために、批評理論という方法が近年では確立されてきています。僕の本でも実質批評理論を使っている。ただ批評理論は、これまでの哲学とかジェンダー研究など他のジャンルでなされてきた議論の中で批評に使いやすいものをパッケージしたものを批評理論と呼んでしまっているところがあるんですね。僕の本にも哲学の話が出てきますが、実際には、哲学のうち批評に流用できる部分の参照なんだけれども。Fさんが、批評理論として確立されたものを勉強したとしたら、同じことをできるようになるかもしれない。ただそれを準備するには卒業論文に間に合うかどうかわからない。また、一定の道具を全部勉強しておかなければ批評ができないというわけでもないので、対象にふさわしい知識をFさんが持っていれば、それをそのまま使って大丈夫だと思います。例えば「あいのうた」ならば、AIが台頭している時代にそれでも自分が創るということはどういうことなのか、という作家の葛藤がほとんどメインだと思います。なので、批評の手法というよりも、創造性とAIについて他の人がどんな風に言っているか、学問的にどんな研究がなされているか、などを横目で見て最終的な卒業論文のときに参照しながら語るといいかもしれないですね。
Fさんはこの曲を改めてどう思いますか。
→続きはPDFでご覧いただけます。
支援ミーティングを終えて
Fさん:
1つの講義を受けているような感覚で、講義を聞いて相談もしているみたいな感じでした。この時間を設けていただいてよかったと思いました。中間発表のテーマも明確になったし、ここで気づいたこともたくさんあったので、発表に生かしていきたいです。
鮎川先生:
Fさんにそう言ってもらえて嬉しいです。教員の立場から教えるというのも選択肢としてあったかもしれないですが、僕の議論を押し付けることになってはいけないとブレーキを掛けつつ、一緒に考えようと臨みました。もう作品を十分に受け取っていると思うので、あとはそれを「まとめる」というプロセスを丁寧にやればバッチリだと思いました。
本記事で参照した書籍
鮎川ぱて. (2022). 東京大学 「ボーカロイド音楽論」 講義. 文藝春秋
本記事で参照した動画一覧
- 大漠波新(2023)「あいのうた」(2025年8月21日閲覧)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm42445494
- 大漠波新(2023)「のだ」(2025年8月21日閲覧)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm42983761
- 柊マグネタイト(2021)「マーシャル・マキシマイザー」(2025年8月21日閲覧)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm39217773
- ぬゆり(2017)「命ばっかり」(2025年8月21日閲覧)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm31680050
- 椎乃味醂(2023)「あなたにはなれない」(2025年8月21日閲覧)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm41955561
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2025.08.25
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)では、「初等中等教育における探究学習への支援プロジェクト」において、児童生徒の発意や関心に基づく探究学習に対して専門の研究者が的確なアドバイスをすることにより、探究の成果をいっそう高度で充実したものとすることをねらいに、東京大学の教員もしくは大学院生がオンラインを通じて支援・指導を行っています。
今回は、中学2年生 Yさんの「スポーツにおける男女格差」に関する探究学習を通して出てきた疑問や悩みに、バリアフリー教育開発研究センターの飯野 由里子先生がアドバイスしました。
- 探究のテーマ: 「スポーツにおける男女格差について~女子サッカーを切り口に~」

・相談者:Yさん(中学2年生)
・探究学習の取組単位:個人
- アドバイスした人:
東京大学大学院教育学研究科 附属バリアフリー教育開発研究センター 飯野 由里子特任教授
専門:合理的配慮 / 子どもの権利 /社会的障壁
→ 飯野先生のページへ
- コーディネーター:教育学研究科 須藤 玲助教(CASEERセンター)

Yさんのご相談
女子サッカーから日本社会の問題へ
視点を広げることで見えてくる新たな探究
Series4. スポーツにおける男女格差について
Yさん:
私がこの探究活動を始めたきっかけは、小さい頃からサッカーがとても好きだったからです。自分でプレーするのも、試合を見に行くのもどちらも好きでした。私は、中学生になるタイミングで、男子の部活動に入るか、クラブチームに入るか、それともやめるかという選択に迫られました。それと同時に、観客数や盛り上がりに男女チームで差があるなとも感じていて、女子サッカーの環境を変えたいって強く思いました。チームがないなら自分で作ればいい。男女で差があるなら、女子サッカーを盛り上げればいい。そう思って、今この活動をしています。

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チームの数が少ないという問題には、「12歳の壁」が大きく当てはまります。私の学校がある市内の中学校で、女子サッカー部があるのは現在3校だけです。また、私の通う地区には女子サッカー部が1つもありません。でも、私の学校は中高一貫校で、受験に合格すれば住む場所にとらわれずに、誰でもサッカーを楽しめるという良さがあります。だから、今年度はJFAとアディダスの合同プロジェクト「HER TEAMプロジェクト」に応募して、実際に女子サッカークラブを立ち上げたいと考えています。

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飯野先生:
ご説明、ありがとうございます。事前にいただいたスライドに、質問が2つ書かれていたのですが、今日相談したかったのは主にその2つになりますか?
Yさん:
はい、そうです。
飯野先生:
わかりました。では、まずそのお話からしていきましょう。一つめは、「SNS(インスタグラム)開設」についてのご質問でしたね。

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これは、最終的には学校の先生や保護者の方と相談して決めてもらいたい内容だと思っていますが、私の考えを少しお話しすると、「本名(フルネーム)」「顔写真」「制服姿」の公開については、できるだけ避けた方がいいと考えています。プロジェクトとして学校名を出して活動するつもりであれば学校名が特定されても問題ないかもしれませんが、そうでない場合は、制服姿から学校や個人が特定されてトラブルにつながる恐れもあります。世の中そんな悪い人ばかりじゃないよねって思いたいんですけれども、オンライン上のトラブルは増えていますので、そこは気をつけなければいけないと思います。インターネット上に一度公開された情報は完全には消せないということも聞いたことがあると思うんですよね。なので、最初から「出しても大丈夫」と確認できた情報だけを発信するように、あらかじめルールを決めておくといいですね。
次に、「どんなふうに発信すればいいか」という話ですが、まず、アカウント名は、活動の内容がわかるようなニックネームをつけるのがいいですね。研究者だと「プロジェクト名」と呼んだりしています。このニックネームやプロジェクト名は、どんな活動をしているのか、どんな未来を創りたいと思っているのかを考えながら決めると良いと思います。その時に、例えば「○○研究プロジェクト」というような固い名前にすると少し敷居が高くなって、誰も彼もがやってくるということにはならないかもしれません。逆に、「未来創造チーム○○」みたいに少しやわらかい感じの名前にすると、より広く人に届くかもしれません。それから、写真もたくさん載せると思うんですが、活動の様子や雰囲気がわかるような写真を使うのがいいと思います。最近はイラストやキャラクター、アバターも簡単に作れるので、オリジナルキャラクターを作って、活動紹介に使うというのも一つの手です。短い動画、リールで紹介すると、多くの人に見てもらえるので、そうしたときにアバターを活用するのも良い方法だと思います。
須藤先生:
ありがとうございます。1つ目の質問に対しては大丈夫そうですね。それでは、2つめの質問について、Yさんから少しご説明いただけますか?

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Yさん:
はい。スポーツにおける男女格差について調べていく中で、日本がG7加盟国の中でジェンダーギャップ指数が最下位だということを知りました。そういった状況のなかで、スポーツという視点から見ると、日本にはどんなところで格差があるのかという点についてお聞きしたいです。それから、スポーツの場面で男女格差が生まれてしまうのはどうしてかということです。また、スポーツだけじゃなくて、もっと広い視点で男女格差を縮めていくために、どんな部分を改善すれば、より良い社会につながっていくのかなということをお聞きしたいです。
飯野先生:
ありがとうございます。Yさんは女子サッカーチームの方々とも交流してきたということですが、そこで格差について聞く機会ってありましたか?
Yさん:
はい。色んな交流をする中で、私自身このテーマについて考える機会がたくさんありましたし、アイデアを得ることもできました。私は、大きく分けて2つの視点から考えています。1つ目はサッカーを“見る”っていう視点で、
→続きはこちらからお読みいただけます(PDFを表示)
支援ミーティングを終えて
Yさんより:
スポーツにおける男女格差(ジェンダーギャップ)について、自分が知っていた知識や過去の経験を超えて、幅広い視点から専門的なお話を聞くことができ、とても有意義な時間となりました。男女格差は複数の要因が起因しており、歴史的要因や文化的要因という過去の出来事が今につながっているのだと思うと、さまざまな分野とのつながりを詳しく調べてみたいと思いました。教えていただいたことをもとに、今後の探究活動をもっと深めていきたいです。また、誰もが男女という性別にとらわれずに自分らしく、人生を送れるような社会にしていきたいです。改めて、貴重なお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。
飯野先生より:
Yさんが明確な活動目標を持って「スポーツにおけるジェンダー格差」というテーマを探求されている姿に、大変感銘を受けました。Yさんとの対話を通じて、小学校卒業後もサッカーを続けたいと希望する女子に対する機会が制約されている状況を表す「12歳の壁」という概念を、改めて深く認識することができました。ご自身の経験をきっかけとしつつも、それを普遍的な社会課題へと昇華させ、自分以外の人々がスポーツへの参加をめぐり経験しているさまざまな壁に関する探求を深めていかれることを心より期待しています。
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2025.08.06
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)では、「初等中等教育における探究学習への支援プロジェクト」において、児童生徒の発意や関心に基づく探究学習に対して専門の研究者が的確なアドバイスをすることにより、探究の成果をいっそう高度で充実したものとすることをねらいに、東京大学の教員もしくは大学院生がオンラインを通じて支援・指導を行っています。
今回は、広島県の小学4年生Mさんの「日本の妖怪」についての探究学習を通して出てきた疑問に、人文社会系研究科日本文化研究専攻の院生、長瀬優希さんがアドバイスしました。
- 探究のテーマ: 日本と世界の妖怪について
・相談者:Mさん(小学4年生)
・探究学習の取組単位:個人

- アドバイスした人:東京大学大学院人文社会系研究科日本文化研究専攻
長瀬優希さん(大学院生)
[専門] 江戸時代の文学、戯作、黄表紙
[研究テーマ] 黄表紙における教訓
- コーディネーター:教育学研究科 本田 由紀教授(CASEERセンター長)

Mさんのご相談
「妖怪」とは何か? という難しい問いを、どう深めるか
―言葉の意味を紐解き、比較することで特徴をつかむ―
Series3. 日本と世界の妖怪について
長瀬さん:
本日は宜しくお願いします。東京大学大学院人文社会系研究科、日本文化研究専攻に所属している長瀬優希と申します。今は修士課程の2年生で、普段は江戸時代の文学について研究をしています。どのぐらいお力になれるかわかりませんけれども、よろしくお願いします。
Mさん:
Mです。小学4年生です。昨年から妖怪について調べていて、低学年代表として全校生徒の前でスライドを発表しました。内容は、日本にいる妖怪について、各県ごとに調べました。また、低学年の皆に協力してもらって、一人ひとりが作ったSDGsの妖怪をまとめて図鑑にしました。今日はよろしくお願いします。
発表したスライドのタイトルと、Mさんの考えたSDGsの妖怪

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長瀬さん:
事前に、Mさんからいただいたご質問はこちらの4点だと思います。
<質問>
① 調べる程に、妖怪なのかお化けなのかの線引きが難しい(唐傘お化けとか)
② 妖怪と、世界で言われるモンスターの違いは何か?
③ 世界の妖怪の何%が日本の妖怪なのか?
④ 世界で妖怪が一番多い国を調べるにはどうしたら良いか?
この質問をいただいて私もずっと考えていたんですけど、まず大前提として、この4つとも、とても難しい質問だっていうことをお伝えしたいんですね。とっても難しい質問で、どれも簡単には答えが出ないし、1つの答えが出てくる質問ではない。必ずしもわかりやすい答えが出てくるとは限らない質問で、僕の先生もこれは難しいよねっておっしゃっていた。 そのくらい難しい質問だということを、まずお伝えしておきたいと思います。 その上で、1つずつの質問についてお話ししていきたいと思うんですけど、大丈夫でしょうか?
Mさん: はい。
長瀬さん:
まず一つめの「妖怪なのかお化けなのかの線引きが難しい」というご質問なんですけども、そうですね。 まず、Mさんは妖怪とお化けの違いって、どういうふうにお考えですか?
Mさん:
ええっと…、お化けとか幽霊には、何かしたいこととか、恨みとかがあって成仏できていない動物とか物とかがなって、妖怪は、人間やいろんな動物とかから生まれたものもいれば、妖怪として生まれたものもいる…。
長瀬さん :
そうですね、確かにそれは1つあるかなぁと僕も思います。僕は、妖怪とお化けにどういう違いがあるのかってことを考えるときに、まず辞書を引いてみたんですね。辞書で調べるというのは、こういうことを考えるときに、最初の手がかりとして良い調べ方かなと思うのでお薦めです。国語辞典で「妖怪」と「お化け」を引いてみたら、いまMさんがおっしゃったような特徴や違いについて書かれていることもあれば、辞書によっては、お化けと妖怪は同じものだよっていうふうに説明しているものもあったりしました。辞書でもそんな風なので、この2つの違いを説明するというのは、なかなか難しいんだなと思います。質問の時に、線引きが難しい例として「唐傘お化け」をあげてくれていましたが、それがいい例で、お化けと妖怪のどちらかに分類しきれないものもあったりするので。
また、僕は江戸時代の文学を主に研究をしているんですけれども、江戸時代の文学だと、お化けっていう言葉とすごく似ている“化け物”という言葉も結構使われていたりします。この化け物っていう言葉は、辞書では「化けて怪しい形姿をするもの」というふうに説明がしてあって、出てくるものとしても、妖怪とすごく似ていたり、重なっていたりするものがいっぱいある。 江戸時代の人たちは、化け物と妖怪っていうのはほとんど同じような意味だと捉えていたようです。そういうことを考えると、お化けとか化け物っていうのと、妖怪っていうのは、かなり重なるところがあるのかなと思います。その上で、どこに違いがあるのかなぁということを考えたときに、お化けとか化け物っていうのは、名前に“化ける”ってありますよね。 その化けるっていうのは、つまり、姿を変えるっていうことだと思うんです。姿を変えるとか、あるいは姿形が人間とは変わったものだっていうところ。 そこに化け物とか、お化けの特徴っていうのがあるのかなっていうことを考えました。
ただまあやっぱりお化けと妖怪って多分、もともとは違うものだったのかもしれないんだけれども、結構ぐちゃぐちゃになっているというか、実際にはどちらとも言えるようなものがたくさんあったりするので、無理に線引きをしようとしないで、お化けも含めた妖怪について広く調べてみるでもいいのかなと思いました。
Mさん:はい、ありがとうございます。
長瀬さん :
じゃあ、2つめのご質問にいきますね。妖怪と、世界で言われるモンスターの違いは何かっていうお話だったかと思います。これも、僕はどうしようかなと思ったときに、まず辞書を引いてみました。辞書でモンスターを調べると、「怪物」とか「怪獣」とかって出てきたりします。これって、妖怪と似ているような気もするけれど、なんかちょっと別のものみたいな感じもしますよね。 Mさんは妖怪とモンスターの違いについて、何か考えていることがあったりしますか? 何でもいいんですけど。
続きはこちらからお読みいただけます(PDFを表示)
支援ミーティングを終えて
Mさんより:
私は妖怪についてよく知っている人と話す事があまり無かったので、長瀬さんと話せてとても楽しかったです。お話しを聞いて、妖怪、化け物、モンスター、フェアリーという名前の意味の線引きが難しいなと思いました。妖怪の意味を取り違えないように、教えていただいた事を活かして、世界のモンスターやフェアリーについても探究してみたいと思います。ありがとうございました!
長瀬さんより:
普段小学生とお話しすることはないので緊張していましたが、Mさんの好奇心にあふれた興味深い質問のおかげで、たいへん充実した時間を過ごすことができました。真摯に話を聞いてくださったMさんと、貴重な機会を作っていただいた本田先生をはじめとするCASEERの皆さんに、心から感謝しています。
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2025.07.28
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)では、「初等中等教育における探究学習への支援プロジェクト」において、児童生徒の発意や関心に基づく探究学習に対して専門の研究者が的確なアドバイスをすることにより、探究の成果をいっそう高度で充実したものとすることをねらいに、東京大学の教員もしくは大学院生がオンラインを通じて支援・指導を行っています。
今回は、埼玉県の中学2年生 TさんのSDGsに関する探究プロジェクトを通して出てきた疑問や悩みに、大学院総合文化研究科・附属国際環境学教育機構の前田 章先生がアドバイスしました。
- 探究のテーマ: シミュレーションゲームを通したSDGsの理解促進
- 相談者:Tさん(中学2年生)

- 探究学習の取組単位:個人
- アドバイスした人:大学院総合文化研究科 附属国際環境学教育機構

前田 章教授
[専門] 環境経済学,資源経済学,ファイナンス,エネルギーシステム,経済理論
[研究テーマ] 気候変動政策の経済モデル分析
→ 前田先生のページへ
- コーディネーター:教育学研究科 本田 由紀教授(CASEERセンター長)

Tさんのご相談
企業の経営とSDGsへの対応は、切り離せない不可分なもの
―よりよい議論や理解のベースとなる、ゲームのシナリオ作りとは?
Series2.シミュレーションゲームを通したSDGsの理解促進
Tさん:
私は、埼玉県の中学2年生のTと申します。本日は、学校の探究活動で行っているSDGsに関するシミュレーションゲームについて、先生たちのお力を借りたいと思い、この機会に参加させていただきました。よろしくお願い致します。
前田先生:
よろしくお願いします。私は、専門は経済学なんですが、大学生の時には経済学ではなくて、工学部で電子工学を勉強したんです。元々数学が好きな少年だったんですけれど、色々あって今は、経済学のなかでも特に環境問題であるとか、不動産や都市、エネルギーなどの応用を専門に研究しています。
今日は、まずTさんのほうから、今どんなことを考えているのか話していただけるのがいいかなと思います。
Tさん:
はい、そもそものテーマは「企業」×「SDGs」で、企業が行っているSDGsの取り組みについて知らない人が多いから、その認知度を上げるということを目的にやっていて、その中でも私はESG投資という、企業が行っている投資に着目して、ゲームの中にその要素を取り入れてプレイしてもらうことで、よりみんなの理解が深まるようなものを作れたらと考えています。
前田先生:
そのゲームというのは、どこでどういう形で使おうと思っているんですか?
Tさん:
作成したゲームは、最終的には校内で開かれるワークショップで、生徒にやってもらおうと思っています。
前田先生 :
そのワークショップは、文化祭みたいな感じでやるんですか? それとも何かの大会みたいな感じで?
Tさん:
うちの学校は、土日に授業とは違って、自分たちが好きなことをやれる時間みたいなのがあるんですけれども、その時に生徒が自分たちの行っている活動について説明したりする時間があるので、ワークショップもそこでやる予定です。
資料の方にもう少し詳しい説明があるんですけれども、共有してもいいでしょうか。
クリックして拡大(PDF)
Tさん:
今悩んでいるのは、2つめの◆のところに「評価(ESG評価)」というのがあるんですけれども、そこでオーディエンスに対してSGDs対策について発表して、その取り組みがいかに良いものかっていうのを公平に判断してもらおうと思っていたんですけれども、学校の先生と相談していた時に、オーディエンス側がこれだとちょっと飽きちゃうんじゃないかという問題が発生していて、オーディエンス側の人をどう立ち回らせるかっていうのが、難しいところかなって思ってます。
前田先生:
これ、一番初めの、そもそものこのシミュレーションゲームの目的は何でしょうね?
Tさん:
目的は、やはり企業が行うSDGsやESG投資が私たちから見て遠い存在にあるものかなって考えたので、一番身近なゲームという形で実際に体験してもらって、こういうものなんだっていうのを理解してもらうということだと設定しています。
前田先生 :
「売上評価」と「ESG評価」という2つの軸があるんだけど、企業経営を中心にする? それともSDGsを中心にする? あるいはその両方?
Tさん:
基本は企業経営が中心というか、その企業でどういうことができるの? 個人ではなく、もうちょっと大きい存在として、どういうことを行っているんだろう? ということでしょうか。
前田先生:
あと、このゲームをやる人の事前知識については、どのくらいだと想定していますか?
Tさん:
ESG投資については、あまりわかってないという状態。かつ、その企業でどんなことが行えるかについても、あまり理解していないのかなと。
前田先生:
企業経営については、ある程度知っている人を想定しますか? それとも全然?
Tさん :
企業経営についても、あまり知らない人が多いと思うので、ルーレットにするなどして簡略化はしているんですけども、わかってない人の方が多いと思います。
前田先生:
参加者っていうのは、このルーレットを回したり、対策を匿名で発表したりする人のことですよね。それから、それを見ていて、評価して点数をつけるのがオーディエンスですよね。そして勝敗は、参加者サイドは点数が多かったら順位が決まるし、オーディエンスも、自分が応援していたチームの順位が高かったら勝敗が決まるっていう、そういう設定ですよね。
Tさん:
はい、その設定です。
前田先生:
そういう意味では、ゲームの参加の仕方が2通りあるってことですね。わかりました。そのうえで、全体のなかで一番気になるのは、やはり前半の「売上評価」と、後半の「ESG評価」の2つの関連性がないところですかね。 それをもう少し考えたらいいと思うんですよね。
Tさん:
そうですね。その部分の関連性は、やっぱり実際に経営していく上でもかなり重要になると思うので、そこの関わりはちょっと入れたいなって思っています。
続きはこちらからお読みいただけます(PDFを表示)
支援ミーティングを終えて
Tさんより
今回の支援ミーティングを経て、自分では見つけられなかった新しい視点や気づきを得ることが出来ました。優しく丁寧に教えてくれた先生たちに感謝しております。
先生方にご指摘貰った箇所を意識し作成していきたいと思います。
前田先生より
教育的あるいは学習的要素のあるゲームを作るというのは、試験問題を作るより難しいことだと思います。もちろん試験問題を作るのは試験問題を解くよりも難しい。ですから、Tさんはこれまでやったことのない超絶ハイレベル難易度のことに挑戦しているということになります。その分学ぶことも多いと思います。ご健闘を祈ります。
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2025.07.11
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)では、「初等中等教育における探究学習への支援プロジェクト」において、児童生徒の発意や関心に基づく探究学習に対して専門の研究者が的確なアドバイスをすることにより、探究の成果をいっそう高度で充実したものとすることをねらいに、東京大学の教員もしくは大学院生がオンラインを通じて支援・指導を行っています。
今回は、埼玉県の中学2年生 Iさんの「児童労働について」の探究学習を通して出てきた疑問や悩みに、文化人類学研究室の関谷雄一先生がアドバイスしました。以下に、ダイジェストを紹介いたします。
- 探究のテーマ: 「児童労働について」

- 相談者:Iさん(中学2年生)
- 探究学習の取組単位:個人
アドバイスした人:東京大学文化人類学研究室 関谷 雄一教授
専門:開発人類学、応用人類学、農村・社会開発、震災復興、地域創生、人間の安全保障、アフリカ、日本
→ 関谷先生のページへ
- コーディネーター:教育学研究科 本田 由紀教授(CASEERセンター長)

Iさんのご相談
みんなが知っているかもしれないことでも、あなたがまとめて自分の言葉で周りの人に伝えることに意味がある
Series1. 児童労働について
Iさん:
私は学校の探究の時間で、児童労働をテーマに探究を進めています。私はこの探究で、働く子どもたちがいなくなる社会を実現するために、児童労働の事実を広め、児童労働を見て見ぬふりをする社会の風潮を変えるということを学習目標に設定しているので、今日は、実際に児童労働が行われているアフリカの地域など、その問題が起こっているところに行って活動している人の声などを聞かせていただきたいなと思っています。また、日本でも児童労働はあるのかについてもうかがいたいです。
関谷先生:
実は、事前に送っていただいた質問を拝見して、私の方でそれに答えられるような簡単な資料を用意したので、まずはそれをご覧いただきながらお話を進めていきたいと思いますが、よろしいですか?
Iさん:
はい、お願いします。ありがとうございます。

関谷先生:
私の専門は文化人類学なんですが、30年ぐらい前に、今はJICAボランティアという名前になっていますが、当時は青年海外協力隊という仕事で2年と6カ月、西アフリカのニジェール共和国というところに行って木を植えていたんですね。そこでは農村の子どもたちと一緒に遊んだり寝食を共にしたりしていたので、その時の思い出もちょっと含めて、このプレゼンを作っています。
→ 関谷先生からの「児童労働」についてのレクチャーを含む記事全文は、こちらからお読みいただけます。(PDFダウンロード)
Iさん:
(関谷先生のお話を受けて)本当に、その大人と子どもの境目がはっきりしていないっていうのは、調べていく中でもすごく思っていたことでした。
例えばその子が望んでいたら児童労働にならないのかとか、定義が難しいなってすごく感じました。
関谷先生:
そうですね。例えば徒弟制度についても、アフリカの子どもたちは、お年寄りに認められることや大人として扱われることをとても重要なことだと捉えていて、学校の先生に褒められることよりも、そういったことで自分の生き方に自信を持ったりする、そういうプロセスがあるんですね。
そういった、生きがいとして行う仕事のことをディーセントワークと言うんですが、私のかつての学生で、今は労働基準監督官になっている人の修士論文のテーマが、まさにその「子どものディーセントワークをどう考えるか」というものでした。その学生の出した結論は、子ども自身が生きがいだと感じられるような仕事であれば、やってもいいんじゃないか? というもので、私は素晴らしいと思って読んだんですけれども、これに対しては色々な見方があって、それはやっぱり子どもの人権を妨げるのではないかとか、先生方の間でも意見が割れました。それだけ難しい話なんです。
私自身も、アフリカの農村にいた時、恥ずかしながら自分のシャツなどを近くの川で子どもに洗ってもらっていたんですね。水汲みも村の女の子がやってくれていて、もちろんそれに対する対価は払っていたんですが、あれを児童労働だと言われると、ちょっとまずいなと思っていて。
要するに農村ではそれが自然になされているわけなんです。
農村の子どもたちにとっては、大人のために家事を手伝うことは、非常に自然なことで。でもそれがエスカレートしていくと、例えば親の代わりに町に働きに行かされる、などということになってしまう。だから、気をつけていないと子どもらしい生き方を奪われてしまうというのは、本当にそうなんです。
じゃあどうすればいいのかということなんですけれども、先ほどご紹介したILOとUNICEFの報告書の中では2つポイントが挙げられていて、1つは制度的な教育の徹底なんです。 やっぱり子どもはなるべく学校に通わせるということ。
学校に通っている時間は働けないわけですから、毎日真面目に学校に通ってもらって、一定の時間勉強をすることで、できれば高等教育につながるようなキャリアパスに進んでくれるというのが、望ましいということ。
もう1つは、社会の中で子どもが働く環境をなるべく作らないように、大人たちが子どもを見守りながら、そういう仕事を与えないこと。貧しいから子どもも働かないと食べていけないという理屈もありますが、必ずしも食うに困ってやっているわけではないケースも多々あります。そういう状態の子どもをできるだけなくしていくことが大事です。
Iさん:
そうすると、結局、法律とかそういう話になってきますよね。
関谷先生:
そうですね。基本的には法律がしっかりしていれば、それに基づいてこの仕事はやっていい・これはダメとか、子どもにはちゃんと義務教育を受けさせるといったことができるはずなんですが、ご存じの通りアフリカのような貧しい国では、その制度自体がしっかりしていないので、法律で大人と子供をはっきり区別して、子どもには教育を受けさせるということがなかなか難しい状況もあります。また、法律や制度が整っていても、例えば学校からドロップアウトしてしまったり、不登校になったり、いろんな形で学校に行けない子どもたちが行き場を失ってそういう仕事に手を出してしまうといったこともあるわけですよね。だから法律や制度を整えたからといって、必ずしもそれだけでうまくいくわけではない。
どうしたらいいんでしょうね。 難しいですね。
私は、先ほども少し申し上げたように、やっぱり社会がそういうことに関心を持つことということが一番大事なのかなと思います。 正しい答えはすぐに出ないけれども、みんなで一緒に児童労働について考えてみようっていう場を作ること。 それはとっても大事だと思います。日本の若い人で、児童労働のことを知っている人は、そんなにいるわけじゃないと思うので。
あと、日本ではどうなのかというところに、Iさんが興味を持ってくださったこともとても大事で、日本でも、やっぱりそういうことが起きているんですよね。実際に、大変な状況に追いやられている子どもたちがいるわけなので、そういったことも多くの人に知ってもらうべきだと僕は思います。
Iさん:
その、みんなに知ってもらうためのポスターに掲載する内容が、まだあまり定まっていなくて。児童労働の現状を伝えることが目的で、形としては、現地の状態を知っている方のインタビューを掲載したり、今おっしゃっていただいた、児童労働のどんなことが問題で、どういうところが難しいのかといったことを掲載しようと思っています。ただ、児童労働の何が悪いかっていうところが、しっかり定まってないというか、わからないところがあるじゃないですか。なので、それをどういうふうに伝えればいいのかが、難しいなと思っています。
関谷先生:
そこは、難しいですね。ポスターは1枚なんですか?
Iさん:
はい、1枚を考えてます。
関谷先生:
なるほど、まず1枚という限られたスペースに何の情報を盛り込むかっていうのは、私たち研究者の世界でも、一番苦しく悩むところなんです。いろいろ調べると、あれもこれも大事みたいに思うんですけど、そういう時に私だったら、「何を一番伝えたいか?」っていうところから考えると、自ずとポスターの書き方っていうのが定まってくるのかなと思います。そのポスターは誰に見せるんですか?
Iさん:
学校の生徒に向けて見せるんですけど、全体の計画としては、学校でまずこのプロジェクトに協力してくれる人を募って、Teamsを使ってグループチャットを開いているので、そこで意識調査アンケートをしようと今作成中です。 まずは意識調査アンケートとテスト形式の筆記調査アンケートを行なっておいて、作成したポスターを見せた後に、もう一度同じアンケートをとって、どれぐらい理解度が深まるかという比較もやろうと思っているんですけど、そのテスト形式のアンケートを実施するってなったときに、やっぱり明確な答えが出てないとダメだなって思って。
関谷先生:
児童労働に関しては、わからないこともあるけれども、はっきりしていることもあるわけですよね。例えばILOの規定では、軽度な家事労働は認めている。一方で、劣悪な環境の中での労働というのは認めていない。そういった〇×とかで質問を組み立てていくと、案外面白いクイズになるかもしれないですね。 また、Iさんから最初にいただいた相談では、児童労働はやっぱり撲滅しよう!という話だったと思うんですが、僕が知る限りにおいて、それはとても難しいんじゃないかなと思います。 難しい理由はいろんな次元で言えるんですけど、だからこそ、児童労働を全てなくすことはできない? みたいな問いかけをすると、人は色々と反応してきますよね。僕だったらそういうクイズを作るかもしれないですね。
あとは、とっても大変な作業かもしれないけど、レクチャーの中でご紹介した参考書籍の中には、かなり当事者の声が入っています。なので、そういうものも参考にしていただくと、よりリアリティのあるクイズを作ったりできるんじゃないかなぁと想像しています。
→ 続きはこちらからお読みいただけます(PDFダウンロード)
支援ミーティングを終えて
Iさんより:
専門家である教授と直接お話できたことで、日本国内の児童労働について知ることができ、インターネットではなかなか知り得ることができない情報を得ることができました。また、自分の成果物において、本当に良いものなのか自信がなかったのですが、教授に後押ししてもらえたことで自信を持てました。これからもこの経験を生かし、探究に励みます! ありがとうございました。
関谷先生より:
『児童労働』という難しい課題に日本の中学生が独学で取り組む姿に心を打たれました。難しい課題でも、時間をかけて考察していくうちに、いつか解決に繋がる光が見いだせるのではないかと思います。 その考察の過程を大切に、ぜひ頑張ってください。
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2025.07.01
教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センターが高校教員の探究指導力向上を支援します
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)は、東京大学教育学部附属中等教育学校(以下、東大附属)およびスタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所国際・異文化教育プログラム(SPICE)と連携し、高等学校における生徒の「個人研究型探究学習」を指導する教員の育成開発を行うプロジェクトを開始しました。本プログラムは、三菱みらい育成財団の助成を受け、生徒が自ら問いを立て主体的に学ぶ「個人研究型探究学習」を指導できる教員を育成し、日本全国の高校教育現場に探究文化を根付かせることを目的としています。
背景
近年、日本の高等学校で「個人研究型探究学習」を取り入れる動きが拡大していますが、指導者不足が課題となっています。生徒の主体性を引き出すためには、教員が知識を与えるだけでなく、生徒の問いに寄り添い伴走する姿勢が求められます。しかし、現行の教職課程や研修ではそうした探求学習の指導が十分にが扱われていないのが現状です。
プロジェクト概要
本プロジェクトでは、協力関係のある高校約5校、教員約50名を対象に、以下の3つの支援を行います。CASEER、東大附属、SPICEの三者が連携し、教師や学校が自律的に探究学習の指導に取り組むことができるような仕組みを提供し、長期的には、本プロジェクトを全国に広げていくことも射程としています。
1. 対象校の探究指導の課題の把握・整理
各学校のカリキュラム、教員の時間、指導目的などから、どうすれば個人研究型探究学習がより豊かで有意義なものになるかを検討します。
2. 東大附属・SPICEの実践見学と議論
探究学習における先駆的実践校である東大附属の事例を見学・議論するほか、各校ごとの探究指導課題に即したオーダーメイドの支援を行います。
3. ピアメンタリング・スキルアップトレーニング
東大附属やSPICEを中心に、個人研究型探究学習の指導経験者による参加教員へのピアメンタリング等を通じて、個人研究型探究学習に必要な知識やスキルを高めるトレーニングを提供します。
問い合わせ先
学校教育高度化・効果検証センター
メールアドレス:c-kodoka(アットマーク)p.u-tokyo.ac.jp
2025.04.02
学校教育高度化・効果検証センターでは、若手研究者の支援を目的として、教育学研究科博士課程の大学院生を対象に年1回研究プロジェクトを公募の形で募集し、多様な観点からの研究の実施を支援しています。
今年度は「教育が直面する課題をあぶり出す」をテーマとした研究プロジェクトを募集します。
ポスターをダウンロード
2025年度 募集要項
2025年度 応募用紙および執筆要領
リンクからダウンロードしてください。
学生支援チーム(大学院担当)のウェブサイトからもアクセスできます。
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研究応募内容
「教育が直面する課題をあぶり出す」に関する内容であり、独自性をもった学術共同研究および個人研究
*詳細は応募要項を参照してください。
応募資格
東京大学大学院教育学研究科に在籍する博士課程大学院生(休学中の者は除く)
研究期間
2025年6月より2026年3月まで
研究助成金額
申請額は個人20万円、グループ40万円を上限とする
成果報告
最終報告会での発表
およびワーキングペーパーの執筆
研究応募期間・提出先(締切延長しました!)
5月14日(水)17時までにc-kodoka(アットマーク)p.u-tokyo.ac.jpに提出
※詳しくは、学生支援チーム(大学院担当)のウェブサイトまたは学校教育高度化・効果検証センターのウェブサイトの募集要項・応募用紙を確認してください。
※今年度の特例として押印、署名不要だが、指導教員の同意を得た上で、申請書類の送付時に指導教員のメールアドレスをCCに入れること。
問い合わせ先
学校教育高度化・効果検証センター助教 須藤
メールアドレス:c-kodoka(アットマーク)p.u-tokyo.ac.jp
2025.04.01
2022年度より、学校教育高度化・効果検証センター効果検証部門では教育学研究科の院生を対象にした新たな研究プロジェクトを開設いたしました。
プロジェクトの背景
教育高度化・効果検証センター効果検証部門では、東京大学大学院教育学研究 科附属学校データベース管理運営委員会と連携し、附属中等教育学校の教育効果検証を行うために、データベースを活用した研究を進めています。
プロジェクトの目的
上記、データベースを活用して、関心あるテーマの分析を行い、年度末のセンター紀要への論文投稿を目指します(研究期間は2025年7月から2026年1月)。分析・執筆の進捗状況によっては学会誌への投稿も可能です。
[これまでの成果:2022年度・2024年度センター研究紀要3本、2023年度学会発表・査読付学術誌1本]
応募資格
学校教育ならびに計量分析、教育効果検証に興味・関心があり、自立して研究を遂行できる教育学研究科の修士課程・博士課程(若干名)とします。なお、パネル調査のデータを使用するため、統計解析を行った経験がある人を望みます。
応募方法
2025年5月上旬に説明会(Zoom)を開催し、申請書の提出(5月下旬)、選考結果の通知は6月下旬となります。申請書の内容によって採否を決定いたします。当プロジェクトにご興味がありましたら、説明会の日時ならびにZoomのURLを配布いたしますので、下記担当までご連絡ください。なお、申請書はリンクからダウンロードしてください。
2025年度スケジュール(予定)
4/1(火)効果検証部門院生プロジェクト募集開始
5/7(水)プロジェクト説明会(Zoom(12:15~12:45):日程変更可能性有)
5/30(金)プロジェクト応募〆切
6/18(水)審査結果通知
6/25(水)採択者ガイダンス
7/1(火)研究開始
1/30(金)論文提出〆切
研究応募期間・提出先
5月30日(金)17時までにgsproject(アットマーク)p.u-tokyo.ac.jpに申請書を提出
※必ず指導教員の同意を得た上で、申請書類の送付時に指導教員のメールアドレスをCCに入れること。
備 考
予算の都合で、昨年度と同様に、謝金をお支払いできるかは未定となりますので、ご留意ください(詳細は説明会にて)。また教育学研究科以外の所属で当プロジェクトにご関心ございましたら、下記、担当までご連絡ください。なお、これまでにお問い合わせあった内容についてはこちらをご参照いただければと思います。
問い合わせ先
担当:効果検証部門 特任講師 上野 雄己(うえの ゆうき)
メールアドレス:gsproject(アットマーク)p.u-tokyo.ac.jp