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J-002 Carlos Alberto Torres 教授(UCLA)ビデオコメンタリー グローバリゼーションと教育

2015.01.07

2014年11月に開催されたセンター主催の公開講演会にて講演をしてくださった、Carlos Alberto Torres 教授(UCLA)のビデオコメンタリーを公開いたします。

※各動画の下に、日本語の要約をつけています。

1. グローバリゼーションの教育に対する影響(約6分・英語)

私は、長年、ネオリベラリズム(新自由主義)やネオリベラル・グローバリゼーションに関心をもってきました。ネオリベラリズムという潮流は教育に対していくつかの含意をもちますが、その中でもっとも顕著なものは民営化(privatization)でしょう。ネオリベラリズムの原則のひとつに、社会や教育の病理は民営化によって解決するという考え方があります。

われわれは現在、非常に難しい時代に直面しているといえます。初等中等教育の問題は、教育の質保証のためにすべてを測定(measure)しテストするという、国際的な潮流にあると思います。実際には、テストが教育の質を保証するということはありません。そして、国際的なテストの潮流とともに、教師の役割を批判する潮流がやってきました。そうした潮流は、教師という職業の地位が下がったり、教師に過剰な負担を強いたり、多様な社会に画一的なカリキュラムを強要したりするという問題につながっていると思います。

一方で、高等教育の問題は、職業教育を重要視し、人文・言語・文化などを軽視する傾向にあると思います。現代は大学間の国際競争の時代といえますが、世界には何千という大学があり、ひとつの大学を例にとって他の大学もそれに従えというのは、非常に問題だと思います。

さらに私たちが直面している問題は、まず第1に、教育へのアクセスの問題です。これは、国連が目標としているもの(Millennium Development Goal)ですが、いまだ達成されません。第2に、教育の質の問題があります。そして第3に、グローバル・シティズンシップ教育の問題が挙げられます。グローバル・シティズンシップ教育なしに、教育の持続可能な発展(Sustainable Development)や国際平和への動きをつくることはできません。

2. アジアの教育を取り巻く環境(約9分・英語)

アジアはグローバル(主に、西洋)文化とローカル文化のせめぎあいの只中にあると思います。インターネットやテレビを通じて、若者はさまざまな文化を目にします。たとえば、1930-40年代にブロンクス(ニューヨーク)で始まったヒップホップカルチャーは、日本でも中国でもインドでも見られます。それぞれの国で独自の解釈をした結果、異なる点もあれば、いくつか共通する点もあります。

また、アジアは今、貿易の中心として拡大しています。アメリカ・EUに続いて、アジアも非常に大きな市場として重要性をもってきています。したがってアジアは、リスクもありますが、政治的・経済的な共同体としての力をもっている地域だと思います。

アジアが今直面する課題は、他の地域と同様、システマティックな分析との継続的な対話、若者との継続的な対話、政治的な課題やリスクとの継続的な対話によって解決されると考えています。教育は、これらの課題の解決に役割を果たすと同時に、これらの課題の被害も受けるといっていいでしょう。

3. 日本の教育および教育研究の役割に対するコメント(約8分・英語)

各地域に特異性というものはありますが、それよりも重要な各地域の共通性に注目した場合、大学というものは以下の3つの点を最重要事項として考えるべきだと思います。

まず第1に、必須課題として、グローバル・シティズンシップ教育が挙げられます。ここで比較教育学者が研究すべき点は、グローバル・シティズンシップ教育がいかにナショナル・シティズンシップ教育に価値を付与できるかという問題です。第2に、持続可能な発展のための教育を生涯教育の文脈で行うことです。そして第3に、世界平和のための教育です。

これらの3つを最重要事項としたうえで、これまで言われてきたような大学の役割――世界を変えるために過去から学び、現在の人々に教える――という役割を果たすことが重要です。研究者の役割は、今後起きそうな問題を防ぎ、問題が起きてしまった場合には解決策を見出すことです。

そして、とくに教育学部・教育学研究科にとって重要な役割は、教育言説を変えるということです。数字や統計、テストだけでは、教育の意味をすべて理解することはできません。現代社会が直面する課題に対して教育がどのような意味をもつか、それについての論理的思考や、問題提起型の教授法――答えを見つけるだけでなく、疑問・問いを考えるような教授法――を行わなければなりません。

 

(日本語要約:高橋史子(特任研究員)