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中学生の「超伝導」についての探究学習に、大学院新領域創成科学研究科の 芝内 孝禎先生がアドバイスを行いました

【初等中等教育における探究学習への支援プロジェクト】
中学生の「超伝導」についての探究学習に、大学院新領域創成科学研究科の 芝内 孝禎先生がアドバイスを行いました

2026.10.08

東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)では、「初等中等教育における探究学習への支援プロジェクト」において、児童生徒の発意や関心に基づく探究学習に対して専門の研究者が的確なアドバイスをすることにより、探究の成果をいっそう高度で充実したものとすることをねらいに、東京大学の教員もしくは大学院生がオンラインを通じて支援・指導を行っています。

今回は、東京都の中学3年生 Yさんの超伝導に関する探究プロジェクトを通して出てきた疑問や悩みに、大学院新領域創成科学研究科・物質系専攻の芝内 孝禎先生がアドバイスしました。

 

探究のテーマ: 超伝導について

  • 相談者:
    Yさん(中学3年生)
    探究学習の取組単位:個人

 

  • アドバイスした人:
    大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻物性・光科学講座
    芝内 孝禎教授
    [専門] 物性物理学
    [研究テーマ] 強相関電子系超伝導に関する研究
    →芝内先生のページへ

 

  •  コーディネーター:
    教育学研究科 本田由紀教授(CASEER センター長)

 

  • オブザーバー:
    東京大学大学院総合文化研究科・教養学部共通技術室(基礎実験化学)
    技術専門職員(指導実施時)白山智佳先生

 

Yさんのご相談

「超伝導とは何か?」から、その先の新たな問いへ
―BCS理論から高温超伝導・室温超伝導まで
Series8.超伝導について

 

本田先生:

では、Yさんの自己紹介からお願いします。

Yさん:

Yと言います。H中学校の3年生です。

芝内先生:

Yさんは超伝導の研究をしているということですが、まず最初に、なぜ超伝導に興味を持ったか説明してもらえますか?

Yさん:

研究者の方々が学校に来てくれて、超伝導の実験をしてもらいました。その実験で超伝導に興味を持ち始めて、もっと研究したいなと思いました。

芝内先生:

あらかじめ質問事項を書いてくださったんですが、すごく良い質問が多かったです。上辺だけじゃなくて本質的なところを質問されているので、その答えも含めて、資料を準備したので、それを見せながら超伝導の研究のYさんが面白いと思っているようなところをかいつまんで説明していきましょう。

 

最初に、超伝導は低温で起こりますが、どのぐらいの温度から超伝導になるか、という超伝導低温温度の歴史を簡単に説明します。 実は最初に発見された超伝導体が水銀で、1911年に発見され、この時の低温温度は 4ケルビンでした。この温度の単位は大丈夫ですか?

Yさん:

大丈夫です。

芝内先生:

恐らく実験では液体窒素が使われたと思いますが、液体窒素の1気圧での沸点が 77ケルビンという値になります。 同じようにもっと冷たい液体があって、それがヘリウムですね。ヘリウムの液体の1気圧での沸点は4.2ケルビンなので、だいたいこのヘリウムと窒素が温度を冷やす時に使う主な寒剤になっており、この二つの温度が超伝導で重要な温度になります。実はこの窒素とヘリウムでは価格が全然違います。

Yさん:

調べたんですけど、すごいですね。

芝内先生:

そうですね。大体窒素が約1ℓで数百円程度、ヘリウムが数千円。これがどんどん今上がっており、非常に高い液体になっています。感覚としては窒素がウーロン茶だとすると、ヘリウムがウイスキーくらいの値段になってきているので、なるべく安い窒素を使えるとより嬉しいということになります。最初の水銀が超伝導になる温度が約4ケルビンで非常に低いので、液体ヘリウムという高価な液体を使わないと超伝導にはできないということです。 その後、より高い温度で超伝導になる物質がいろいろ見つかってきましたが、この1911年~1957年の間は非常に低い温度の超伝導体しか見つかってきませんでした。 そして1957年に一度、超伝導の理論が完成します。それがバーディーン・クーパー・シュリーファーという三人の物理学者によって作られたBCS理論です。実はこのバーディーン先生は唯一、ノーベル物理学賞を二回取っている先生です。

Yさん:

はい。

芝内先生:

一回目はトランジスタの発明でノーベル賞を取っています。普通、一度取ったら二度目はなかなか難しいのですが、この超伝導の理論があまりにも素晴らしかったので、これはあげざるを得ないという形で、このBCS理論に対して1972年にノーベル物理学賞が出ています。 BCS理論は、世界で最も美しい物理学理論の一つとも言われ、宇宙物理学や素粒子物理学などの他の分野にも影響を与えています。この理論によって超伝導体の性質のほぼすべてがわかったということで、一旦、超伝導の研究が落ち着きました。

ところが1986年に、全く異なる系統の超伝導体が見つかりました。銅(Cu)と酸素(O)を含む「銅酸化物高温超伝導体」です。液体窒素の温度を初めて超える超伝導体ができたということで、ものすごい超伝導研究のフィーバーが物理学界で起こりました。最初に発見したのはベドノルツとミュラーというIBMの研究者で、発見のわずか1年後にノーベル賞を取っています。実は当初、彼らが論文を発表した時は、発表したデータが十分とは言えず、信じがたいような論文だったので、ほとんど誰も信じなかったんですね。しかし、東京大学工学部物理工学科の田中昭二先生らが本物であることを証明し、その後わずか一年ぐらいの間に、非常にたくさんの研究がなされて、ノーベル賞に導かれたということになっています。

さらに2008年には、当時の東工大の細野先生が鉄を含む「鉄系超伝導体」を発見しました。銅酸化物系と鉄系はいずれも高い転移温度を示し、普通の金属超伝導体とは一線を画すと言われています。実は BCS 理論は非常に優れた理論なので、世の中に存在する物質のさまざまなパラメータからどのぐらいの転移温度になるか計算することができます。これは質問にあった「超伝導の転移温度を計算できるのか」という点になりますが、昔は計算が非常に大変でしたが、最近はコンピューターの性能向上により、第一原理計算を使って、結晶構造を与えると、BCS 理論に基づいた超伝導の転移温度が完璧に計算できるようになっています。通常の物質では40ケルビンを超えるのは難しいと考えられ、これがいわば「BCS理論の壁」とされていました。ところが、この銅酸化物超伝導体と鉄系超伝導体は、BCS理論の壁を圧倒的に超えているわけです。これらの超伝導体について第一原理計算で計算するとわずか1ケルビンぐらいの超伝導しか計算では出てこないのですが、実際には77ケルビンの窒素温度を超えた超伝導体が見つかっています。つまり、通常の金属超伝導体は、BCS 理論で完璧に説明できるが、銅酸化物超伝導体や鉄系超伝導体はBCS 理論では説明できないメカニズムで超伝導が起きているということです。

実はごく最近、すごい圧力を加える技術が発達してきて、200万気圧という非常に高い圧力を加えることで水素を含む超伝導体が200ケルビンを超える温度で見つかりました。BCS 理論では、二つの電子が対をつくることで超伝導になります。なぜ電子同士でペアを作ることができるかというと、その間にある「格子振動」を使います。規則正しい物質の中には原子が並んでいますが、それぞれわずかですが、非常に小さく振動しています。その格子振動を使って電子と電子がペアを組むことができるというのがBCS 理論の基本的な考え方です。

水素は非常に軽い原子です。そのため、水素の格子振動は他の元素とは異なる性質を持つことが知られていました。実は BCS 理論ができた頃から水素を固体化できれば、高い低温度が出るのでは、ということが言われていました。ところが、ご存知のとおり水素は常圧では気体です。水素を固体化する技術はありませんでした。それを高圧を使い、硫黄を混ぜることで固体化し、固体化した水素を使うと高い低温度が出ることが証明されました。BCS 理論の壁が実は「壁」はなく、マテリアルパラメーターをうまいこと調整すれば、実は転移温度をあげられることが証明されました。

しかし、高圧でできた超伝導体をそのまま使うのは無理なんですね。こんなに高い圧力を大きな試料で作るのも無理ですし、その状態のまま保持するのも絶対無理です。なので、超伝導転移温度の壁がないとわかったのは重要ですが、圧力をかけないで高い転移温度を出すための機構を物理的に明らかにすることが現在の超伝導の重要な研究課題になっています。では、先ほどの対を組むとなぜ超伝導になるかというと、普通の金属では、電子が物質中を動き回っていますが、こういう散乱体にぶつかったりして、それが抵抗の原因になります。

 

ところが超伝導になると、二つの電子が対を組むことで、波の性質が強調されたような、新しい状態になるんですね。イメージとしては、白熱灯からレーザーになるような感じです。そうすると散乱体があっても、それに散乱されないような状態になり、電気抵抗がゼロになります。BCS理論では、二つの電子が「格子振動」を介して、対を形成します。電子はどちらもマイナスの電荷をもつため、普通は反発します。しかし、この格子振動を介することで、特別な状態で電子同士が引き合うということがわかりました。BCS 理論では電子と電子を引っ付ける糊が格子振動でしたが、現在考えられているのは、違うものを介したら、より高い転移温度を持つ超伝導ができる可能性があるのではないかということで、高温超伝導物質のメカニズムが日々研究されています。どのような「糊」を使用すればいいのか様々議論がなされており、それを見つけることが、より転移温度の高い物質を見つけるための一番の近道になると考えられており、それが見つかれば、室温超伝導も夢ではないと考えられています。

Yさんの質問に「研究者は超伝導転移が高い物質を見つけているのか」とありましたが、現在はこれを説明する研究をしています。もう一つの質問は、「室温で使える超伝導材料を開発する上で一番大きな問題点は何か」ということですが、今のところBCS理論ではなかなか難しそうだということがわかっているので、例えば超高圧を使えば別ですが、普通の状況ではなかなか難しいです。ところが、BCS理論における格子振動とは異なる何かがうまく電子に引力を働かせることができれば高温超伝導ができるのではないかということです。また、「今もまだわかってない超伝導についての謎があるのか」という点は先ほど説明したように、この糊が何かという点が最大の謎になっているわけです。

「ある物質の超伝導転移を実験する前に予測できる方法はあるか」という質問ですが、先ほど話したように今コンピューターが発達していますので、第一原理計算でこのメカニズムの転移温度は計算ができます。しかし、それと異なるメカニズムは計算ができないので、ちゃんとわかることが重要なことになります。最後の質問は、「もしも資金が無限にあるとしたら、超伝導についてどのような実験をしますか?」 ということですが、実はこういう物質の共通性をまず知ることが大事なので、今、例えば化学式の組成を少し変えたら、超伝導の特性がどう変化するのかなど実験を通して色々調べています。なので、そういった実験がたくさんできるように必要な実験装置を購入して、実験をたくさんすることが大事だと考えます。大体の説明をしましたが、Yさんから何か質問はありますか?

Yさん:

一点だけ、色々調べた中で見つけたんですが、わからないやつがあって。Natureに記載されているらしいんですが、真空揺らぎによる要因によって超伝導が増強されるということがあったのですが、それがどのようなものなのか、少しでもいいので理解したいです。

 

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支援ミーティングを終えて

  • Yさん:

芝内先生のおかげでプレゼンテーションの内容が遥かに良く、自信を持って発表できるものになりました。またこのような機会はCASEERがなければ成り立たないものです。このようなことを可能にしてくださった芝内先生とCASEERに心より感謝しています。

 

  • 芝内先生:

今回、超伝導に興味を持って、質問していただきありがとうございました。超伝導は非常に奥深い現象で、多くの研究者を魅了し続けています。その本質を本当に理解するには、物理学の勉強が必要ですが、物理学は理解の積み重ねが必要な学問なので、普段勉強している内容を完全に理解していくことが大事です。中学・高校で学ぶ内容は、将来、興味を持った事柄を深堀するときに必ず役に立つと思いますので、目の前の学習を大事にしてください。

 

 

(文責:CASEER・谷垣明里)