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2026.10.08
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)では、「初等中等教育における探究学習への支援プロジェクト」において、児童生徒の発意や関心に基づく探究学習に対して専門の研究者が的確なアドバイスをすることにより、探究の成果をいっそう高度で充実したものとすることをねらいに、東京大学の教員もしくは大学院生がオンラインを通じて支援・指導を行っています。
今回は、東京都の中学3年生 Yさんの超伝導に関する探究プロジェクトを通して出てきた疑問や悩みに、大学院新領域創成科学研究科・物質系専攻の芝内 孝禎先生がアドバイスしました。
探究のテーマ: 超伝導について
相談者:
Yさん(中学3年生)
探究学習の取組単位:個人
アドバイスした人:
大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻物性・光科学講座
芝内 孝禎教授
[専門] 物性物理学
[研究テーマ] 強相関電子系超伝導に関する研究
→芝内先生のページへ
- コーディネーター:

教育学研究科 本田由紀教授(CASEER センター長)
- オブザーバー:
東京大学大学院総合文化研究科・教養学部共通技術室(基礎実験化学)
技術専門職員(指導実施時)白山智佳先生
Yさんのご相談
「超伝導とは何か?」から、その先の新たな問いへ
―BCS理論から高温超伝導・室温超伝導まで
Series8.超伝導について
本田先生:
では、Yさんの自己紹介からお願いします。
Yさん:
Yと言います。H中学校の3年生です。
芝内先生:
Yさんは超伝導の研究をしているということですが、まず最初に、なぜ超伝導に興味を持ったか説明してもらえますか?
Yさん:
研究者の方々が学校に来てくれて、超伝導の実験をしてもらいました。その実験で超伝導に興味を持ち始めて、もっと研究したいなと思いました。
芝内先生:
あらかじめ質問事項を書いてくださったんですが、すごく良い質問が多かったです。上辺だけじゃなくて本質的なところを質問されているので、その答えも含めて、資料を準備したので、それを見せながら超伝導の研究のYさんが面白いと思っているようなところをかいつまんで説明していきましょう。

最初に、超伝導は低温で起こりますが、どのぐらいの温度から超伝導になるか、という超伝導低温温度の歴史を簡単に説明します。 実は最初に発見された超伝導体が水銀で、1911年に発見され、この時の低温温度は 4ケルビンでした。この温度の単位は大丈夫ですか?
Yさん:
大丈夫です。
芝内先生:
恐らく実験では液体窒素が使われたと思いますが、液体窒素の1気圧での沸点が 77ケルビンという値になります。 同じようにもっと冷たい液体があって、それがヘリウムですね。ヘリウムの液体の1気圧での沸点は4.2ケルビンなので、だいたいこのヘリウムと窒素が温度を冷やす時に使う主な寒剤になっており、この二つの温度が超伝導で重要な温度になります。実はこの窒素とヘリウムでは価格が全然違います。
Yさん:
調べたんですけど、すごいですね。
芝内先生:
そうですね。大体窒素が約1ℓで数百円程度、ヘリウムが数千円。これがどんどん今上がっており、非常に高い液体になっています。感覚としては窒素がウーロン茶だとすると、ヘリウムがウイスキーくらいの値段になってきているので、なるべく安い窒素を使えるとより嬉しいということになります。最初の水銀が超伝導になる温度が約4ケルビンで非常に低いので、液体ヘリウムという高価な液体を使わないと超伝導にはできないということです。 その後、より高い温度で超伝導になる物質がいろいろ見つかってきましたが、この1911年~1957年の間は非常に低い温度の超伝導体しか見つかってきませんでした。 そして1957年に一度、超伝導の理論が完成します。それがバーディーン・クーパー・シュリーファーという三人の物理学者によって作られたBCS理論です。実はこのバーディーン先生は唯一、ノーベル物理学賞を二回取っている先生です。
Yさん:
はい。
芝内先生:
一回目はトランジスタの発明でノーベル賞を取っています。普通、一度取ったら二度目はなかなか難しいのですが、この超伝導の理論があまりにも素晴らしかったので、これはあげざるを得ないという形で、このBCS理論に対して1972年にノーベル物理学賞が出ています。 BCS理論は、世界で最も美しい物理学理論の一つとも言われ、宇宙物理学や素粒子物理学などの他の分野にも影響を与えています。この理論によって超伝導体の性質のほぼすべてがわかったということで、一旦、超伝導の研究が落ち着きました。
ところが1986年に、全く異なる系統の超伝導体が見つかりました。銅(Cu)と酸素(O)を含む「銅酸化物高温超伝導体」です。液体窒素の温度を初めて超える超伝導体ができたということで、ものすごい超伝導研究のフィーバーが物理学界で起こりました。最初に発見したのはベドノルツとミュラーというIBMの研究者で、発見のわずか1年後にノーベル賞を取っています。実は当初、彼らが論文を発表した時は、発表したデータが十分とは言えず、信じがたいような論文だったので、ほとんど誰も信じなかったんですね。しかし、東京大学工学部物理工学科の田中昭二先生らが本物であることを証明し、その後わずか一年ぐらいの間に、非常にたくさんの研究がなされて、ノーベル賞に導かれたということになっています。
さらに2008年には、当時の東工大の細野先生が鉄を含む「鉄系超伝導体」を発見しました。銅酸化物系と鉄系はいずれも高い転移温度を示し、普通の金属超伝導体とは一線を画すと言われています。実は BCS 理論は非常に優れた理論なので、世の中に存在する物質のさまざまなパラメータからどのぐらいの転移温度になるか計算することができます。これは質問にあった「超伝導の転移温度を計算できるのか」という点になりますが、昔は計算が非常に大変でしたが、最近はコンピューターの性能向上により、第一原理計算を使って、結晶構造を与えると、BCS 理論に基づいた超伝導の転移温度が完璧に計算できるようになっています。通常の物質では40ケルビンを超えるのは難しいと考えられ、これがいわば「BCS理論の壁」とされていました。ところが、この銅酸化物超伝導体と鉄系超伝導体は、BCS理論の壁を圧倒的に超えているわけです。これらの超伝導体について第一原理計算で計算するとわずか1ケルビンぐらいの超伝導しか計算では出てこないのですが、実際には77ケルビンの窒素温度を超えた超伝導体が見つかっています。つまり、通常の金属超伝導体は、BCS 理論で完璧に説明できるが、銅酸化物超伝導体や鉄系超伝導体はBCS 理論では説明できないメカニズムで超伝導が起きているということです。
実はごく最近、すごい圧力を加える技術が発達してきて、200万気圧という非常に高い圧力を加えることで水素を含む超伝導体が200ケルビンを超える温度で見つかりました。BCS 理論では、二つの電子が対をつくることで超伝導になります。なぜ電子同士でペアを作ることができるかというと、その間にある「格子振動」を使います。規則正しい物質の中には原子が並んでいますが、それぞれわずかですが、非常に小さく振動しています。その格子振動を使って電子と電子がペアを組むことができるというのがBCS 理論の基本的な考え方です。
水素は非常に軽い原子です。そのため、水素の格子振動は他の元素とは異なる性質を持つことが知られていました。実は BCS 理論ができた頃から水素を固体化できれば、高い低温度が出るのでは、ということが言われていました。ところが、ご存知のとおり水素は常圧では気体です。水素を固体化する技術はありませんでした。それを高圧を使い、硫黄を混ぜることで固体化し、固体化した水素を使うと高い低温度が出ることが証明されました。BCS 理論の壁が実は「壁」はなく、マテリアルパラメーターをうまいこと調整すれば、実は転移温度をあげられることが証明されました。
しかし、高圧でできた超伝導体をそのまま使うのは無理なんですね。こんなに高い圧力を大きな試料で作るのも無理ですし、その状態のまま保持するのも絶対無理です。なので、超伝導転移温度の壁がないとわかったのは重要ですが、圧力をかけないで高い転移温度を出すための機構を物理的に明らかにすることが現在の超伝導の重要な研究課題になっています。では、先ほどの対を組むとなぜ超伝導になるかというと、普通の金属では、電子が物質中を動き回っていますが、こういう散乱体にぶつかったりして、それが抵抗の原因になります。

ところが超伝導になると、二つの電子が対を組むことで、波の性質が強調されたような、新しい状態になるんですね。イメージとしては、白熱灯からレーザーになるような感じです。そうすると散乱体があっても、それに散乱されないような状態になり、電気抵抗がゼロになります。BCS理論では、二つの電子が「格子振動」を介して、対を形成します。電子はどちらもマイナスの電荷をもつため、普通は反発します。しかし、この格子振動を介することで、特別な状態で電子同士が引き合うということがわかりました。BCS 理論では電子と電子を引っ付ける糊が格子振動でしたが、現在考えられているのは、違うものを介したら、より高い転移温度を持つ超伝導ができる可能性があるのではないかということで、高温超伝導物質のメカニズムが日々研究されています。どのような「糊」を使用すればいいのか様々議論がなされており、それを見つけることが、より転移温度の高い物質を見つけるための一番の近道になると考えられており、それが見つかれば、室温超伝導も夢ではないと考えられています。
Yさんの質問に「研究者は超伝導転移が高い物質を見つけているのか」とありましたが、現在はこれを説明する研究をしています。もう一つの質問は、「室温で使える超伝導材料を開発する上で一番大きな問題点は何か」ということですが、今のところBCS理論ではなかなか難しそうだということがわかっているので、例えば超高圧を使えば別ですが、普通の状況ではなかなか難しいです。ところが、BCS理論における格子振動とは異なる何かがうまく電子に引力を働かせることができれば高温超伝導ができるのではないかということです。また、「今もまだわかってない超伝導についての謎があるのか」という点は先ほど説明したように、この糊が何かという点が最大の謎になっているわけです。
「ある物質の超伝導転移を実験する前に予測できる方法はあるか」という質問ですが、先ほど話したように今コンピューターが発達していますので、第一原理計算でこのメカニズムの転移温度は計算ができます。しかし、それと異なるメカニズムは計算ができないので、ちゃんとわかることが重要なことになります。最後の質問は、「もしも資金が無限にあるとしたら、超伝導についてどのような実験をしますか?」 ということですが、実はこういう物質の共通性をまず知ることが大事なので、今、例えば化学式の組成を少し変えたら、超伝導の特性がどう変化するのかなど実験を通して色々調べています。なので、そういった実験がたくさんできるように必要な実験装置を購入して、実験をたくさんすることが大事だと考えます。大体の説明をしましたが、Yさんから何か質問はありますか?
Yさん:
一点だけ、色々調べた中で見つけたんですが、わからないやつがあって。Natureに記載されているらしいんですが、真空揺らぎによる要因によって超伝導が増強されるということがあったのですが、それがどのようなものなのか、少しでもいいので理解したいです。
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支援ミーティングを終えて
芝内先生のおかげでプレゼンテーションの内容が遥かに良く、自信を持って発表できるものになりました。またこのような機会はCASEERがなければ成り立たないものです。このようなことを可能にしてくださった芝内先生とCASEERに心より感謝しています。
今回、超伝導に興味を持って、質問していただきありがとうございました。超伝導は非常に奥深い現象で、多くの研究者を魅了し続けています。その本質を本当に理解するには、物理学の勉強が必要ですが、物理学は理解の積み重ねが必要な学問なので、普段勉強している内容を完全に理解していくことが大事です。中学・高校で学ぶ内容は、将来、興味を持った事柄を深堀するときに必ず役に立つと思いますので、目の前の学習を大事にしてください。
(文責:CASEER・谷垣明里)
2026.10.03
2026年9月25日(金)に、個人研究型探究学習の指導者を支援する研修プロジェクト第5回定例研修会をオンラインで開催し、全国から22校・58名の先生方に参加いただきました。
5月から実施してきた基礎プログラムも、今回で最終回を迎えました。第5回のテーマは、「探究の評価とそのサイクル」。探究で何をどのように評価するのか、評価を学習過程の中にどのように位置づけるのかについて、研究知見と各校の実践の両面から考えました。今回は、4校から実践をご紹介いただき、議論を行いました。
【1】研究知見から考える「探究の評価」
第一部では、CASEER特任研究員の澤田和輝より、「探究学習の評価」に関する国内外の研究知見をもとに、探究において何を、どのように評価するのかについてレクチャーが行われました。
探究学習では、成果物、探究のプロセス、身についた資質・能力など、さまざまな対象を評価することが考えられます。また、教員による評価だけでなく、自己評価や生徒同士の相互評価を取り入れたり、ルーブリックやポートフォリオなど、さまざまな方法を用いたりすることもできます。
レクチャーでまず確認されたのは、評価方法を選ぶ前に、探究学習を通して生徒に何を経験してほしいのか、どのような力を身につけてほしいのかという教育目標を明確にすることです。探究の目的によって重視する対象や方法は異なるため、それぞれの特徴や限界を踏まえ、学校の目標に応じて評価方法を選択・組み合わせていくことが重要だと説明されました。
また、「誰が評価するか」「いつ評価するか」「どのような基準で評価するか」「何を評価材料とするか」など、評価を設計する際の複数の観点が示されました。また、複数の教員が評価する場合などには、評価者によって結果が大きく異ならないかという「信頼性」の問題についても取り上げられました。
※信頼性:測定・評価の結果が、繰り返しや評価者間でどの程度一貫しているかを表す概念。
どの評価方法にも長所と限界があります。レクチャーでは、教育目標に照らして必要な方法を選び、必要に応じて組み合わせる考え方が示されました。たとえば、日々の対話やプレゼンテーションを形成的な見取りに用い、最終成果物を総括的に評価する組み合わせも紹介されました。
「評価」のタイミングによる分類とその特徴
学校ごとの目標・狙い・理想から継続的な探究を支える評価を設計することの重要性
【2】事前課題から見えてきた「探究」評価の現状
第二部では、CASEER特任研究員の林知里が、事前課題への回答をもとに参加校で実際にどのような評価が行われているのかを整理し、そのうえで各校の実践を検討しました。
「探究」評価の現状を把握するため、参加されている先生方を対象に実施した事前課題では、年度末や学期末に論文、ポスター、プレゼンテーションなどの成果物を評価する実践が多く見られました。また、探究のプロセスや試行錯誤、主体性を評価の対象に含めたり、途中成果物へのコメント、個別面談、中間発表、ポートフォリオなどを用いたりする実践も報告されました。
その中で目立ったのが、評価後の活用に関する課題です。対話やフィードバック、振り返りを取り入れている学校がある一方、「特にない」「うまくできていない」「年度末に評価するため次に活かせない」といった回答も多くありました。年度末に評価が集中すると、生徒が結果を受け取り、その後の行動を考える時間を確保しにくいという制度・カリキュラム上の制約も示されました。
こうした回答を踏まえ、総括的評価は「何ができるようになったか」を捉えて次の段階に活かすもの、形成的評価は「今どこにいるか」を捉えて次の一手を生み出すもの、と整理されました。
形成的評価をめぐっては、「評価」と意識されていない対話や支援も論点となりました。たとえば、生徒と一対一で対話して現在の状況を把握し、問いを返すことは支援であると同時に、「生徒の現在地を見取り、次の学びを生み出すための情報を得る」という意味では形成的評価としても捉えられます。前回の研修で扱った「見取りと支援」と今回の「評価」の境界が、実践の中では必ずしも明確ではないことが確認されました。
また、探究の評価施策を検討したり見直す際の視点として、「何のための評価なのか」を起点とした、評価設計の5つの視点が提示されました。

事前課題から見えてきた生徒による自己評価・相互評価の現状

探究の「評価」を考える5つの視点
【3】実践から考える「探究の評価」
続いて、4つの参加校の先生方から、実際に使用しているルーブリックやワークシート、カリキュラムなどの資料をご共有いただきながら、探究の評価に関する実践をご紹介いただきました。
4校に共通していたのは、成果物だけでなく、探究の過程や振り返りも評価に取り込んでいた点です。ただし、何を重視し、どのような方法や体制で評価するかには、各校の教育目標やカリキュラムを反映した違いがありました。
A校では、高校2年生の個人課題研究の終了時に、生徒自身の自己評価と課題指導者による評価を組み合わせた「口頭試問」を実施しています。口頭試問では、研究内容、研究と社会とのつながり、個人課題研究の経験を今後どう生かすかを振り返ります。研究経験から教訓を言語化し、自己理解を深めることが目的とされています。
B校では、学校として育成を目指す資質・能力や望ましい行動を具体的に示し、生徒と教員の間で共有しています。セルフアセスメントでは、各項目を段階的に自己評価するとともに、その判断の理由を自身の活動内容と照らし合わせて記述します。報告では、こうした具体的な指標が生徒に方向を示す一方、時間的制約や通知表との兼ね合い、生徒・教員双方の負担も課題として挙げられました。
C校では、年間を通して「探究―評価―改善」のプロセスが2回循環するようにカリキュラムが設計されています。全教員によるメンター制に加え、大学院生などがTAとして授業に入り、生徒の探究に伴走します。教員とTAは「指導の手引き」や「進捗確認表」を共有し、生徒の状況を把握しながら連携しています。また、外部発表や大学・企業との連携、進路・将来への還元もカリキュラムの中に位置づけられています。
D校では、教科の中で行う探究と総合的な探究の時間を二つの軸とし、情報技術などの学びがそれらを支える形でカリキュラムが構成されています。学校として育てたい資質・能力を細分化して共通言語とし、それを起点に各教科の授業を設計しています。また、共通フォーマットを用いることで、各授業で育成を目指す資質・能力を可視化し、個々の教員の実践を学校全体で共有する仕組みも紹介されました。
4校を比較すると、評価の仕組みは、それぞれの学校が掲げる教育目標やカリキュラム、指導体制と結びついて設計されていました。
【4】評価を支える学校の仕組み
実践紹介後の意見交換では、評価基準の具体性と負担、授業時数、成績・通知表との関係など、評価を実際に運用するための条件が論点となりました。たとえばB校の報告では、詳細な評価基準が生徒に方向を示す一方、時間的制約や通知表との兼ね合い、生徒・教員双方の負担が課題として挙げられました。また、全体の意見交換では、総合的な探究の時間と他教科との授業時数の兼ね合いについても話題となりました。
こうしたやり取りを受け、評価方法そのものに加えて、評価をいつ行い、振り返りや対話の時間をどこに確保するかを、カリキュラムや指導体制と合わせて考える必要があるのではないか、という意見が交わされました。
さらに研修終了後の延長戦でも、多くの先生方に残っていただき、意見交換が続きました。教科の中で探究的な学びをどのように実現するか、探究に対する教員間の認識や熱量の違いを踏まえて学校全体の体制をどうつくるかなど、次の応用編にもつながる論点が話題となりました。
- 基礎プログラムを終えて -
今回で、5月から続いてきた基礎プログラム全5回が終了しました。個人研究型探究学習とは何かというところから始まり、テーマ設定と問い立て、研究方法、生徒の学びの見取りと支援、そして評価とそのサイクルまで、5回を通して探究の各段階を検討してきました。
10月からは応用編へと移り、視点を学校やカリキュラム全体へと広げながら、個人研究型探究学習をどのように位置づけ、充実させていくのかを検討していきます。次回は10月30日(金)に、「学校運営と指導体制」をテーマに開催される予定です。
文責:CASEER・水林慎太郎
2026.10.03
東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)では、「初等中等教育における探究学習への支援プロジェクト」において、児童生徒の発意や関心に基づく探究学習に対して専門の研究者が的確なアドバイスをすることにより、探究の成果をいっそう高度で充実したものとすることをねらいに、東京大学の教員もしくは大学院生がオンラインを通じて支援・指導を行っています。
今回は、東京都の中学3年生 Kさんの子どもの声を聞くことに関する探究プロジェクトを通して出てきた疑問や悩みに、大学院教育学研究科・総合教育科学専攻臨床心理コースの高橋 美保先生がアドバイスしました。
探究のテーマ: 誰もが意見を言える場づくりについて

探究学習の取組単位:個人
アドバイスした人:大学院教育学研究科・総合教育科学専攻臨床心理コース
高橋 美保教授
[専門] 臨床心理学
[研究テーマ] 失業者の心理と援助
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- コーディネーター:教育学研究科 本田由紀教授(CASEER センター長)
Kさんのご相談
立場や空気に左右されない話し合いはどのようにつくられるのか
Series7.誰もが意見を言える場づくりについて
本田先生:
それでは、 Kさんの自己紹介をお願いします。
Kさん:
私は今、中学三年生です。自分の住んでいる地域の子ども会議に委員として参加した経験があります。その時に、大半の子が空気を読んで、周囲の期待に応える行動を取ったために、声の大きい生徒の意見だけが集まってしまったことがありました。本来それぞれが意見を持って集まったはずなのに意見が引き出されずに終わってしまったなということを感じました。参加した自分の感覚からすると、発言を抑えていたのは、恥ずかしいといったことではなく、自分の置かれた立場を意識し、その場の空気を読んだ結果、自分に期待されている役を察して、発言が制限されてしまったのではないかなと感じました。ブレインストーミングの段階で、幅の広い意見とかアイデアを募集したいってなった時に、その遠慮は意見を消してしまうなと思いました。
そこでロールプレイゲームを考え、その方法で楽しく解決できるのではないかと考えたのですが、現在、自分の知り合いに試してもらっており、全く知らない人や年代が異なるといった相手ではないので、遊びで終わってしまっていて、社会的な貢献につながらないのではないかと感じて行き詰まりを感じています。
本田先生:
ありがとうございます。 Kさんは、以前一回お申し込みいただいて、浅井先生とやりとりしていただいていますが(Series6. 子どもの声を聞くことについて)、今回は、それを踏まえてなんとか解決したいということでカードゲームを作られた、その先のご相談ということになりますね。
ではこれから高橋先生とKさんの間で自由にやりとりをしていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
高橋先生:
はい、わかりました。浅井先生とやりとりされた記事を拝見しますと、Kさんの関心は、「子どもの声などがどのように政治や政策に生かされていくかといったことや、それが大事だけどあんまりうまく届いてない気がする」というところなんですかね。一番関心があるところがどの辺か教えてもらっていいですか?
Kさん:
そうですね。子どもの声とかが届いてないっていうのはすごい気になっていて。その後、子どもの声に限らず、例えば病院のリハビリ現場でも、ちゃんと本音が言えずに本来できるはずの支援が行き届いていなかったり、災害の避難所でも上手くニーズと支援が合致せず逆に迷惑になることがあるということも知って、解決できないかなというふうに思い、気になっているという感じです。
高橋先生:
なるほど。大事なテーマだと思います。そうすると、子ども以外のどんな人であっても、その人が本当に思っていることが表現できなかったりするといったあたりに関心があるんですかね。対象は子どもだけでなく、広がっているっていう理解でいいですか?
Kさん:
はい。
高橋先生:
なるほど。わかりました。Kさんが会議に出て、どんな体験をされたか聞いてもいいですか?その時にKさんは発言をされた?できなかった?どんな感じでした?
Kさん:
最初にメンバーの中で自己紹介をした時に、「この会議2回目なんです」、「帰国子女なんです」と言った人がいました。そこで立場が違うというか、なんか「あ、そうなんだ」と、なんとなく従わなきゃいけない感じを感じました。あと区の人も書記の役割ではあったんですが、参加者の発言に対してリアクションの差があり、それによって、「あ、こういう意見の方が正しいのかな、求めてるのかな」というふうに感じたりしました。
高橋先生:
Kさんは、言いたいことがあった人なのかな。
Kさん:
そうですね。考えていましたが、最終的にはグループの中でどの意見を押し出すかという際に多数決だったので。
高橋先生:
なるほど。じゃあその場ではKさんは言いたいことがある人だったし、一応言いたいことは言えた、のかな。
Kさん:
そうですね。けど結局グループで最終案を決める時に、区の人のリアクションが良かったものをしたいのかな、これを求めてるのかなみたいなところがあり、みんなそれに投票したのかなと考えたり…。
高橋先生:
そういう流れだったのね。わかりました。Kさんは言いたいことがあって、そこで言うことはできたけど、その時に言うことにためらいとかもあったわけですか?
Kさん:
うーん、そうですね。私は言ったんですけど、他の子とかは「いや、私は言わなくてもいいかな」という感じの子もいて。そういう子もちゃんと会議の場にわざわざ足を運んだし、自分の意見があって参加したんだと思うんですが、言えてないというところがやっぱり問題なのかなと思ったり。
高橋先生:
なるほど。じゃあKさんは言えたんだけど、「明らかにちょっと意見ありそうなんだけど、言わなかったのかな…」みたいな子がその場にもいた、ってことですよね。
Kさん:
はい。
高橋先生:
なるほど。Kさんがどんな体験をされたのか、どこが課題だと思っているのか、今のやりとりで私なりに理解してきました。後から参入した人のやりにくさもあるし、意見の言いにくさとか、あとは多数決の不平等さみたいな、そういうところもあるってことですよね。そうするとただ意見を言うだけじゃなくて、意見が反映されていくプロセスにも関心がおありってことですよね。
Kさん:
そうですね。確かに、目立たない子が素晴らしい意見を持っていたとしても、それはもしかしたら結局決定されないかもしれないし。その会議の題材は海外からの在住者に関連しているものだったのですが、その場で「私は帰国子女なんですけど」という人がいると、海外の経験があるから、区の人も「おぉ」とリアクションしていて。そういう人が意見を言うと、決定に近づくところもあると思うので。
高橋先生:
確かに。どういうところが問題で、どうなればいいのかな。
Kさん:
立場の違いが見えてしまったのが問題なのかなと思って。例えば二回目の参加だとか、海外にいたとか、プロフィールに左右されちゃったところがあったなと思うので、プロフィールを知らずに、ただ単純に意見を言うみたいな形だったら良かったのかなと思います。
高橋先生:
なるほど。その点がカードゲームの色に反映されてるんだよね。
Kさん:
はい。
高橋先生:
そういうロジックがすごく分かりやすいなと思っていて、カードゲームについても後で説明してもらおうと思ったんだけど、“プロフィールがわからないようにする、自分じゃなくする”っていうアイデアでしたよね。
Kさん:
そうですね。キャラクターカードみたいな感じで、自分とは別のプロフィールで意見を言うという。
高橋先生:
そのカードの立場の人として話すみたいな。カードについて、Kさんの今の体験がどんなふうに反映されたのか、Kさんの意図みたいなものを聞かせてもらってもいいかしら。
Kさん:
例えば八十代ぐらいの町の自治会長とかを引いた時には、例えばその町と昔の姿を知っていて、近所付き合いとかを大事にしてるみたいなことがわかると思うので、その立場で参加してみるというか。私が子ども会議に参加した時には、自己紹介で学校名を名乗る流れでした。私立校の子が多くて。だからある程度学校のランクや校風がお互いにわかってしまって、学校を代表して参加したわけではないのに、自分で学校を意識してしまうことになりました。そういう経験があったので、キャラクターを作ることによって、外から見た自分から自由になれるのかなと。
高橋先生:
わかります。“自分が本当に持っているプロフィールから出て、一旦いろんな立場を想定する”っていうことよね。さきほどの高齢者のおじいさんとか。じゃあ仮に「Kさんがその人になった時に、その人の立場で、あるテーマについて意見を言ってください」って言われたら、Kさんがその時に言う意見は、誰の意見なの?
Kさん:
自分の意見というよりかは、その人の立場から考える意見みたいな。
高橋先生:
うんうん。じゃあ例えば「地元に昔からいるおじいちゃまです」となった時にはKさんは「おじいちゃんもきっとこういう風だろうな」と想像して、「こんな意見あるかな」と思って言ってみるみたいな。
Kさん:
そうですね。はい。
高橋先生:
なるほど。それはKさんはできそう?
Kさん:
はい。あと今回考えたカードゲームの案にはカードが三種類あって、そのうちの一つが話すスタイルを規定するカードです。例えばジェスチャーと共に話すとか、感謝しながら話すとか、そういう制限をつくることで楽しく意見を考えられるかなと思ったりしました。そして、キャラクターを規定するカードの時に「おじいちゃんです」って言われただけではあまりわからないから、カードの下に昔からこの街に住んでて、近所付き合いとかを何より大切にしてるよとか。
高橋先生:
つまりおじいちゃんのプロフィールをもっと詳細に作り込んであるわけよね。
Kさん:
そうですね。
高橋先生:
なるほど。ゲームをやってみてどうだった?どんな感じだった?
Kさん:
どういう雰囲気で言うかというカードを取り入れたので、それはすごく面白かったし、自分じゃ普通は考えない意見とか、自分達でも予想外の意見がたくさん出たので、そこは面白かったんですが、将来的にはこれを知らない人同士で使えるような、アイスブレイクみたいにしたいと思ったので、そういう点では自分の知ってる人とは楽しくできたけれど、初めての人同士ではどうかなと。解決というよりは遊びで終わってしまったみたいなところはあります。
高橋先生:
それが三つ目の質問だよね。今のだと確かにプロフィールの影響で言えなかったり、抑制しちゃうことは解消されるのかなと思うんだけど。例えば、おじいさんになって言った発言っていうのは、“自分が言いたいことが言えてる”感じになるのかな。例えばだけど、テーマについて、おじいちゃんじゃなくても何か思うことあるよね、きっと。自分でもね。だけど、“おじいちゃんという立場”ができちゃってるじゃない?ってなった時に、どっち側で意見言うのかなって。「おじいちゃんの体で自分の意見を言いましょう」なのか、自分の意見はさておいて、「きっとおじいちゃんだったら私は思わないようなこんなことを思うかもしれないと思って、それを言ってほしい」のかっていうと、どっちが正解なのかな。
Kさん:
おじいちゃんに乗せて自分の意見を言うみたいな。
高橋先生:
なるほど。自分の意見をおじいちゃんに乗せるのね。やってみた時は難しくなかった?
Kさん:
そうですね。私達の時はあんまり難しくなくて、深く考えずにすんなりできたんですが、難易度で考えてみると、知り合い同士だったからかもしれません。結構、発想力とかが必要なところはあるなと。
高橋先生:
そうだよね。私も、なかなか難しい高度な技だなと思っていて。 でも、素の自分じゃない誰かを介すことで言えた達成感の方があるのかな。「言えました」みたいな感じがあるのかな。
Kさん:
そういうところで自分の意見を考えて言う場の雰囲気をつくることによって、自分の意見も言えるようになるのかなとかも思って。
高橋先生:
なるほど、わかりました。私は臨床心理学が専門で、いろんなトレーニングの中で、実はロールプレイというのをやるのね。ロールプレイって役取りをするんだけど、やっぱりそれって結構難しいんだよね。役の人が果たしてどんな人なのか、ちゃんと想像ができないと、「おじいちゃんとしてのプロフィールをどこまで大事にしたらいいのか」っていうところで、私だったら迷っちゃうかな、っていう気がしていて。
Kさん:
そういうふうに考えてみると、まず最初にゲームとして、アイスブレイクに使った後に、リアルな自分の意見を交換するといいのかなと思ったりしました。同じ議題だとしても、二つの方向から考えてみるというか。
高橋先生:
うんうん。Kさんが時折アイスブレイクって言葉を使ってるのが、私はすごく大事なことかなと思っていて。今“何をどう表現してもらうか”という議論をしてるけど、実はアイスブレイクを入れるかどうかっていうのは、“どのように場を作るか”っていうお話をされていることになるのね。Kさんは「複数の人間が、しかも立場が違ったり、意見が違ったりする人たちが、どうやったら建設的な議論ができるか、平等性とか公平性みたいなものが保たれながらうまくいくといいよね」ということを考えたい人なんだな、と私は今理解してるけど、大丈夫かな。
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支援ミーティングを終えて
今回のお話を終えて、キャラクターカードは同じ中学生同士や知り合い同士でプレイしたから面白く感じたのではないかと感じました。実際に私が変えたかった「空気」は、初対面の人や普段は違うコミュニティで暮らす人が一緒になった場合の事を考えていたため、ステレオタイプや先入観が入ってしまう設定は嫌な思いをする人が出る可能性もあり、修正が必要な事に気が付きました。実際の深い議論をするというよりは、最初に仲良くなる・打ち解ける・他人の目線に立つという為の方法に注目したかったため、もう一つの表現方法を制限するカード(例:感謝しながら話す、結論から話す、〇〇の視点で話す)だけでも、普段の素の自分ではない体験と、自分のキャラを隠すことにつながるので、背景が違う人が集まる場ではそちらを使うだけでも十分かなと思いました。
楽しく積極的に関われる解決方法があれば、カードゲームにこだわる必要は無いのですが、年代が違う人や初対面の人が話をする場合、言葉のニュアンスが同じ意味で伝わっているかどうかにも気を付ける必要があるなと思いました。
色々とアドバイスを頂いたので、頂いたキーワードについても調べてみたいと思います。どうもありがとうございました。
Kさんが自分自身の体験から感じた疑問を、実験という形に高めて、実際にやってみていることを知り、もうすでに立派な研究者の卵だな、と感心しました。私は心理職でもあるので、最初から答えを提供するのではなくて、まずはKさん自身が「本当のところ、私は何に疑問を持っているのか、何をどうしたいと思っているのか」を対話の中で丁寧に解きほぐすところから始めてしまいました。本当は、そこからどう研究の形にしていくのかについてもう少しお話ししたかったのですが、Kさんの関心には色んな登り口があることはわかりましたよね。まずは、「自分はどの登り口から頂上を目指したいか」から考えてみて下さい。Kさんの関心の中には私の関心も含まれているので、いつか山の頂上でばったりお会いできるよう、私も頑張ります。Kさんの今後の発展を心から楽しみにしています。
(文責:CASEER・谷垣明里)
2026.09.05
2026年8月28日(金)に、個人研究型探究学習の指導者を支援する研修プロジェクト第4回定例研修会をオンラインで開催し、全国から20校・64名の先生方に参加いただきました。
第4回のテーマは、「生徒の学びの見取りと支援」。前回の研修会で示された「教員は正解を与える専門家ではなく、伴走者として関わる」という立ち位置から、具体的にどのような関わり方が生徒の探究を支えるのかについて、国内外の研究知見や事例をもとに考えました。
【1】「生徒の学びの見取りと支援」に関する研究からの知見
第一部では、本田由紀教授より、「生徒の学びの見取りと支援」に関する国内外の研究知見をもとに、探究学習における教員の関わり方についてレクチャーが行われました。
まず、探究における教員の関わり方として、「放置ではなく対話」「押し付けではなく提案」「否定ではなく受容」という3つの視点が示されました。「主体的に取り組むこと」を重視するからといって、教員が手をかけず、生徒に任せきりにすればよいわけではありません。一方で、教員からの働きかけが一方的な指示や押し付けになれば、生徒自身が考えたり、選んだりする機会を狭めることになります。前提として、教員と生徒のコミュニケーションが容易ではないからこそ、生徒の考えを受け止めながら対話を重ね、必要に応じて複数の可能性を示し、最終的な判断は生徒自身に委ねるという関わり方が求められます。

「見取りと支援」における3つの“No”と“Yes”
国内外の研究知見からは、探究の初期段階では、教員によるガイダンスや足場かけが必要であることも紹介されました。そのうえで、生徒の理解や反応を見取りながら支援の程度を調整し、自分でできるようになった部分については徐々に支援を外していくという考え方が示されました。最初からすべてを生徒に任せるのではなく、生徒の状態に応じて必要な支援を行いながら、徐々に自分で探究を進められる状態を目指すということです。
また、「見取りと支援」を独立した指導技術として捉えるのではなく、学校としてどのような探究を目指すのかという目標、生徒一人ひとりの学習過程、その後の振り返りや評価までを含めた一連の流れの中に位置づける必要があることも強調されました。

「見取りと支援」の位置付け
探究における教員は、教科内容を直接教える場合とは異なる関わり方が求められます。質問したり、考えられる方向を提案したりすることで、生徒自身の思考や選択を促していくことが求められます。対面でのやり取りだけでなく、生徒が書いたものにコメントを返すことなども含め、継続的に生徒と接する機会を設けることが望ましいとされました。
その際、教員が生徒の言葉や関心を手がかりに、本人もまだ明確に言語化できていない探究の可能性を仮に見立て、それを提案として返すことがあり得ます。ただし、それを正解として示すのではなく、「これは先生の思いつきだから、却下してもよい」と断ったうえで提案したり、複数の選択肢を示したりすることで、生徒自身が判断できる余地を残すことが大切です。
さらに、一人の教員だけで生徒の探究を支えようとするのではなく、他の教員や生徒、外部の指導者など、「複数の目、複数の声」を取り入れることの重要性も示されました。

「見取りと支援」のために望ましいこと
【2】東大附属における探究支援の実践紹介
第二部では、東京大学教育学部附属中等教育学校で数学教員として卒業研究の指導経験をもつ稲村先生より、同校における個人研究型探究の実践をもとに、探究支援についてのレクチャーが行われました。
レクチャーでは、稲村先生が卒業研究を指導する際に意識していたこととして、生徒に具体的な提案や情報提供を行うこと、生徒と一緒に研究対象やデータに触れながら考えること、研究の「良いところ」を見つけることが紹介されました。
たとえば、生徒自身では見つけることが難しい論文を紹介したり、取り組みやすい研究方法を提案したりすることで、探究を動かすきっかけをつくります。また、生徒が研究対象としているゲームを稲村先生自身も実際に体験したり、一緒にデータを眺めたりしながら研究内容への理解を深め、その後の提案につなげていたといいます。
研究の「良いところ」を探すという点では、まずは生徒本人にとっての「内的価値」を尊重しながら、そのテーマにどのような学術的・社会的な「外的価値」があり得るのかを教員も探していきます。また、研究が思うように進まなかった場合にも、単に「失敗」と捉えるのではなく、そこから得られた結果や気づきの中に研究としての価値を見つけていくことが紹介されました。

稲村先生が実際の指導場面で「見取りと支援」として意識していること
こうした具体的な提案や情報提供が、本田教授のレクチャーで示された「押し付けではなく提案」になっているのかという点についても議論がありました。稲村先生からは、教員が必ずしも生徒のテーマの専門家ではないことが、生徒と一緒に探究する立場を取りやすくする場合があることや、提案した通りに生徒が進めなくてもよいという前提を持って関わることの重要性が語られました。

「押し付けではなく提案」になるためには?
【3】生徒本人から見た「見取りと支援」
続いて、稲村先生から卒業研究の指導を受けた東京大学教育学部附属中等教育学校6年生のAさんにも参加いただき、実際に教員から受けた支援をどのように捉えていたのかについて、稲村先生との問答や参加者からの質疑が行われました。
Aさんは、当初VR空間で生じる錯覚に関心をもって研究を始めました。その後、稲村先生から関連する論文や実験方法の提案を受け、実験を試しながら問いや方法を少しずつ変えていきました。想定していた結果が得られなかった際にも、そこで研究を止めるのではなく、教員とのやり取りを手がかりに自分でも調べ、別の実験方法を考えて研究を進めていったといいます。
こうした研究の過程についてAさんからは、教員から提案された内容をそのまま受け入れるのではなく、その後に自分で調べたり、考え直したりしていたことが語られました。教員とのやり取りを終えたあとにも、自宅で内容を整理し直し、「ここはさらに調べられそうだ」と考えながら次の研究につなげていたといいます。教員からの提案を一つの材料としながら、生徒自身が問いや方法を更新していく過程がうかがえる事例でした。

東大附属中等教育学校Aさんの研究の経過
また、高校段階で卒業研究に取り組むことならではの難しさについても率直な意見が聞かれました。高校生にとっては大学受験が身近にあり、卒業研究に時間を使えば受験勉強の時間が減り、受験勉強を優先すれば研究を十分に進められないという両立の難しさがあります。卒業研究への取り組み方や熱量には同級生の中でも大きな違いがあることが語られ、研究内容だけでなく、学校生活や進路選択との関係も含めて探究を捉える機会となりました。
【4】各校の実践から考える「見取りと支援」
後半では、二つのレクチャーとAさんとの問答を踏まえ、個人研究型探究学習の指導を進めるうえで参加者が抱えている不安や困りごとを出発点に、各校で実践されている「見取りと支援」の工夫について全体で意見交換を行いました。
議論の一つの焦点となったのは、生徒の主体性を尊重しながら、教員がどこまで働きかけるかという点です。生徒に助言すると、その通りに進めてしまい、かえって生徒自身の探究ではなくなってしまうのではないかという不安が共有されました。その一方で、「どうしてそう考えたのか」「どのようなことをやってみたいのか」と問い返しながら、生徒の興味や考えを引き出していく実践も紹介されました。
また、一人の教員が多くの生徒を担当する中で、一人ひとりと対話する時間をどのように確保するかという課題も共有されました。専門外のテーマであっても、分からないことを生徒に尋ねながら対話を楽しむという実践が紹介された一方で、担当する生徒が多く、そうした時間を十分に確保できない学校もあります。そこで、教員だけですべての支援を担うのではなく、生徒同士や他校、学校外の人との関わりを活用する実践についても意見が交わされました。
たとえば、他校と合同でフィードバックの機会を設け、生徒が自分の探究について発表し、他校の生徒や大学院生などから質問や意見を受ける実践が紹介されました。教員は場を設定したうえで基本的には見守り、生徒が複数の人から異なる視点を得られる機会をつくっているといいます。ただし、生徒同士であれば自然に深い対話が生まれるわけではありません。友人関係への配慮などから、表層的なやり取りにとどまり、問いを掘り下げることが難しい場合もあります。そのため、ルーブリックなどの基準を提示して、教員が必要に応じて現在の状態をフィードバックするなど、生徒同士の学び合いを支える工夫についても議論が行われました。
こうした実践共有を通して、一人の教員がすべての生徒を抱え込むのではなく、生徒同士や複数の教員、学校外の人との関係を組み合わせながら生徒の探究を支えるためのさまざまな工夫が共有されました。
また、今回の研修終了後にも延長戦として自由交流の時間が設けられ、Aさんや時間の許す参加者とともに熱心な議論が続きました。
本研修では、9月までを「個人研究型探究学習」の探究ステップを検討する基礎プログラムとして実施しています。次回は9月25日(金)に、「探究の評価とそのサイクル」をテーマとして開催する予定です。
文責:CASEER 水林 慎太郎
2026.08.05
2026年7月31日(金)に、個人研究型探究学習の指導者を支援する研修プロジェクトの第3回定例研修会をオンラインで開催し、全国から24校・約70名の先生方にご参加いただきました。
第3回のテーマは、「高校段階で取りうる研究の方法論」。
前回の振り返りでは、参加者から寄せられた事後課題をもとに、探究の初期段階におけるテーマ設定や問い立てについて改めて整理するとともに、生徒が探究のプロセスそのものを経験することの重要性が共有されました。
そのうえで今回は、個人研究型探究学習において、生徒が自らの問いに応じて研究方法を選択し、試行錯誤を重ねながら探究を深めていくために教師はどのような視点で支援すればよいのかをテーマに、CASEERより2つのレクチャーを行いました。また、後半では参加者から寄せられた事前課題や質疑をもとに、高校段階の探究における研究方法の選択や教師の関わり方について活発な議論が交わされました。
【1】個人研究型探究における研究方法の学びと選択
第一部では、上野雄己特任准教授より「個人研究型探究における研究方法の学びと選択」をテーマにレクチャーが行われました。レクチャーでは、まず、研究方法とは単なるアンケートやインタビューなどの手法だけを指すのではなく、問いに応じて情報を整理し、研究として扱える形にしていく考え方であることが示されました。問いと方法を往還しながら試行錯誤を重ね、結果や助言をもとに問いや方法を更新していくことこそが、高校段階の探究において育みたい学びであることが共有されました。
また、生徒の「気になる」を研究の問いへと育てるための6つの問いかけと、問いに合う研究方法を考えるための5つの視点が紹介されました。生徒の関心を出発点としながら、妥当性や実現可能性などを踏まえて方法を選択し、試行錯誤を通して問いと方法を更新していく考え方が整理されました。

「問い」を研究に近づける6つの問いかけ
(クリック・タップで拡大、以下同様)
「問いに合う方法」を考えるための5つの視点
さらに、教師が研究方法の正解を一方的に与えるのではなく、必要な知識や見通しを示しつつ、生徒の言葉を拾い、問い返しながらともに考える伴走者となることの重要性が示されました。また、個人探究を一人で完結させるのではなく、友人や先輩・後輩、複数の教員との対話や、他の生徒の実践の共有を通して、問いや方法を多面的に見直す場を設けることの重要性も共有されました。

探究において教師が果たすべき役割

対話と学び合いを通じた研究方法の学び
【2】探究のプロセスにおける研究方法と分析方法の選択
第二部では、須藤玲助教より、「探究のプロセスにおける研究方法と分析方法の選択」をテーマに、具体的な研究事例をもとにレクチャーが行われました。
冒頭では、「探究テーマ・問い」から「研究・分析方法」への流れは単線的に決まるものではなく、両者を往還しながら相互に深まっていくことが紹介されました。研究の問いから複数の研究方法を検討するだけでなく、研究方法を検討する過程で問いそのものが具体化・深化していくこともあるため、問いと方法を柔軟に往復しながら探究を進めていくことの重要性が共有されました。

問いと研究・分析方法を往還しながら探究を深める
そのうえで、文献調査、インタビュー、アンケート、観察、実験といった多様な研究方法について、それぞれの特徴や分析方法、活用場面を具体的な研究事例とともに紹介されました。研究方法ごとに求められるスキルや留意点は異なり、一つの問いに対しても複数の方法を選択・組み合わせることができることから、生徒の問いに応じて研究方法や分析方法を柔軟に提案できる「引き出し」を持つことの重要性が示されました。また、方法そのものを教えることを目的とするのではなく、生徒が「分かった」と実感できるよう、問いと方法を適切に結び付けるための支援が教師に求められる役割であることが強調されました。
レクチャーを踏まえた全体ディスカッション
レクチャーを踏まえて、後半では参加者と講師陣による全体ディスカッションを行いました。議論では、研究方法や分析方法の考え方を、実際の学校現場でどのように生かしていくかを中心に、多様な実践と課題が共有されました。学校や生徒によって探究活動の到達目標や取り組める内容には大きな幅があり、時間や設備、地域性などの環境的な条件も異なります。さらに、生徒一人ひとりの問いに丁寧に向き合いたいという思いと、教員が担える時間や専門性、人的資源との間に生じるジレンマも指摘されました。
たとえば、生徒が睡眠の質を測りたいと考えても、必要な機材を用意できない場合、その関心を尊重しながら、どのように実現可能な方法へと組み替えていくのかが話題となりました。生徒の考えを安易に否定せず、何を明らかにしたいのかを改めて確かめながら、文献調査やアンケート、インタビューなど別の方法をともに検討することが提案されました。一方で、そのような提案を行うためには、教員側にも研究方法についての一定の知識や「引き出し」が必要であり、教師自身がどのように学び続けるかという課題も共有されました。
そのうえで、教師が答えや方法を一方的に与えるのでも、生徒にすべてを委ねるのでもなく、生徒の問いや考えを尊重しながら、実現可能性や妥当性をともに検討する伴走者として関わることの重要性が改めて確認されました。アンケートやインタビューにおける研究倫理、回答者の確保、文献や一次資料へのアクセスなど、高校で探究を進める際に直面する具体的な課題についても意見が交わされました。
今回の研修終了後にも、延長戦として自由交流の時間を設け、時間の許す参加者とともに議論を続けました。
本研修は、2027年3月まで全11回にわたって月次で開催し、個人研究型探究学習に関する重要なトピックを掘り下げながら、各校での実践につなげていきます。第4回までを「個人研究型探究学習」ならではの探究のプロセスを検討する基礎プログラムとし、それ以降は、学校やカリキュラム全体の中に探究をどのように位置づけ、個人研究型探究学習をいかに充実させていくかを検討する発展プログラムを実施します。
次回は8月28日(金)に、「生徒の学びの見取りと支援」をテーマとして開催する予定です。
文責:CASEER・水林 慎太郎
2026.07.02
2026年6月26日(金)に、個人研究型探究学習の指導者を支援する研修の第2回定例会をオンラインで開催し、全国から24校・76名の先生方にご参加いただきました。
第2回のテーマは、「テーマ設定と問い立ての支援」。
冒頭で、上野特任准教授より前回のキックオフの振り返りと研修全体における本日の位置づけについて共有したうえで、個人研究型探究学習におけるテーマ設定や問い立ての支援について、CASEERから以下の2つの情報提供を行いました。
【1】個人研究型探究学習におけるテーマ設定
本学教育学研究科修士課程・博士課程で学び、現在は民間企業で探究学習プログラムの開発も行っている福島創太特任研究員より、探究学習における生徒のテーマ設定が難しくなっている背景や、動機づけの考え方、生徒が自らの関心をもとにテーマを立てていくためのアプローチのヒントを提示。また、多くの先生方が悩まれている一斉指導と個別指導の使い分けに関しても、問い立てのステップや生徒の状態、課題をもとにそれぞれの段階でできることを整理しました。

動機づけの考え方
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アプローチのヒント

一斉/個別指導の使い分け
【2】問い・テーマ設定:“探究ゼミ”の指導経験に基づいて
続いて協力研究員の白山智佳先生(東京大学教養学部技術専門職員)より、前任校の金沢大学附属高等学校での理系の探究ゼミの実践をもとに、生徒が問いを生成するための基盤作りを目的とした事前課題の設定や、問いを深めていく段階での教員との関わりについてのお話がありました。
事前課題では、生徒が個別の問いを設定する前段階で、身近なキーワードをテーマにした実験を経験してもらうことによって科学的なアプローチの基礎を学んでもらうとともに、壮大なテーマではなく身近な問いを深堀することの面白さや価値に気づいてもらい、さらに協働で探究を進めていく人間関係も構築できる可能性があるとのこと。
また、テーマ決定のプロセスにおける生徒と教員の具体的なやりとりをもとに、「様々に迷ったり変えたりしながらテーマを固めていく」、「指示ではなく問いを重ねる」、「生徒同士の対話を活用する」などの経験値が共有されました。

全員が取り組む事前課題の例

事例からうかがえる知見
研修の後半では、ブレイクアウトルームにおける先生同士の感想や疑問の共有を経て、レクチャーに対する質疑や、事前課題で先生方から提示された悩みや試行錯誤について、全員でディスカッションをする時間を持ちました。先生方からは、「問い立ての前段階として、体験や観察、問う姿勢の獲得が必要だと感じた。それにはどのような活動が効果的なのだろうか?」、「“自分の興味”、“社会的意義”、“実現可能性”などの要素のバランスを取ることが難しい。どう考えたら?」といった質問や意見が出され、参加者とCASEERスタッフを交えて活発な意見交換が行われました。
研修終了後にも、延長戦として自由交流の時間を設け、時間が許す方々とともに、議論は尽きませんでした。
本研修は、2026年3月まで全11回にわたって月次で開催され、個人研究型探究学習に関する重要なトピックについて深く掘り下げ、各校の実践につなげていきます。次回は7月31日(金)に、「高校段階で取りうる研究の方法論」をテーマに開催される予定です。
文責:CASEER・林 知里
2026.06.08
2026年5月31日(日)に、生徒の個人研究型探究学習の指導を担当されている高校教員の方々を支援する「研修プロジェクト」の第1回キックオフミーティングを、対面とオンラインのハイブリッド形式で実施しました。全国から22校・74名の先生方にご参加いただき、これから1年間続く研修の学びの土台と関係性づくりを行いました。
キックオフミーティングでは、まずは本田由紀センター長より本プロジェクトの主旨や年間計画を共有させていただいたうえで、参加校の皆様から、探究学習に関する現状や課題、本研修への参加の狙いを簡潔に紹介し合っていただきました。

本田センター長による概要説明

会場の様子


研修の年間計画
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各校からの学校紹介
続いて上野特任准教授より、「個人研究型探究学習の実態と意義」と題して、様々なデータをもとに探究学習の実態を共有したうえで、これまでの調査や研究、連携校における効果検証で明らかになった知見をもとに、探究学習の意義を考えるための視点を提示しました。


上野特任准教授によるレクチャー
研修の後半部では、「個人研究型探究学習を通して、私たちは生徒に何を経験してほしいのか?」をテーマに、学校横断でグループになり対話セッションが行われました。
セッション①では、参加者一人ひとりの個人的な探究経験を原点に、探究とは何を経験することか?を要素分解し言語化を行ったうえで、グループ対話でその経験や探究観を抽象化・一般化。続くセッション②では、主語を自校の生徒に置き直し、個人研究型探究学習を通して何をどのように経験してほしいのか、そのために大事な要素とは何かについて議論しました。
研修終了後には、研修プロジェクトに参加してくださった先生方とCASEERスタッフで懇談会を設け、様々な意見交換が行われました。
本研修は、2026年3月まで全11回にわたって毎月開催され、個人研究型探究学習に関する重要なトピックについて各回で深く掘り下げ、各校の実践につなげていきます。次回は6月26日(金)に、「テーマ設定と問い立ての支援」をテーマに開催される予定です。
文責:CASEER・林 知里
2026.04.15
2026.04.11
2026.04.01