東京大学大学院教育学研究科附属学校教育高度化・効果検証センター(CASEER)では、「初等中等教育における探究学習への支援プロジェクト」において、児童生徒の発意や関心に基づく探究学習に対して専門の研究者が的確なアドバイスをすることにより、探究の成果をいっそう高度で充実したものとすることをねらいに、東京大学の教員もしくは大学院生がオンラインを通じて支援・指導を行っています。
今回は、東京都の中学3年生 Kさんの子どもの声を聞くことに関する探究プロジェクトを通して出てきた疑問や悩みに、大学院教育学研究科・総合教育科学専攻臨床心理コースの高橋 美保先生がアドバイスしました。
探究のテーマ: 誰もが意見を言える場づくりについて
- 相談者:Kさん(中学3年生)
探究学習の取組単位:個人
- コーディネーター:教育学研究科 本田由紀教授(CASEER センター長)
Kさんのご相談
立場や空気に左右されない話し合いはどのようにつくられるのか
Series7.誰もが意見を言える場づくりについて
本田先生:
それでは、 Kさんの自己紹介をお願いします。
Kさん:
私は今、中学三年生です。自分の住んでいる地域の子ども会議に委員として参加した経験があります。その時に、大半の子が空気を読んで、周囲の期待に応える行動を取ったために、声の大きい生徒の意見だけが集まってしまったことがありました。本来それぞれが意見を持って集まったはずなのに意見が引き出されずに終わってしまったなということを感じました。参加した自分の感覚からすると、発言を抑えていたのは、恥ずかしいといったことではなく、自分の置かれた立場を意識し、その場の空気を読んだ結果、自分に期待されている役を察して、発言が制限されてしまったのではないかなと感じました。ブレインストーミングの段階で、幅の広い意見とかアイデアを募集したいってなった時に、その遠慮は意見を消してしまうなと思いました。
そこでロールプレイゲームを考え、その方法で楽しく解決できるのではないかと考えたのですが、現在、自分の知り合いに試してもらっており、全く知らない人や年代が異なるといった相手ではないので、遊びで終わってしまっていて、社会的な貢献につながらないのではないかと感じて行き詰まりを感じています。
本田先生:
ありがとうございます。 Kさんは、以前一回お申し込みいただいて、浅井先生とやりとりしていただいていますが(Series6. 子どもの声を聞くことについて)、今回は、それを踏まえてなんとか解決したいということでカードゲームを作られた、その先のご相談ということになりますね。
ではこれから高橋先生とKさんの間で自由にやりとりをしていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
高橋先生:
はい、わかりました。浅井先生とやりとりされた記事を拝見しますと、Kさんの関心は、「子どもの声などがどのように政治や政策に生かされていくかといったことや、それが大事だけどあんまりうまく届いてない気がする」というところなんですかね。一番関心があるところがどの辺か教えてもらっていいですか?
Kさん:
そうですね。子どもの声とかが届いてないっていうのはすごい気になっていて。その後、子どもの声に限らず、例えば病院のリハビリ現場でも、ちゃんと本音が言えずに本来できるはずの支援が行き届いていなかったり、災害の避難所でも上手くニーズと支援が合致せず逆に迷惑になることがあるということも知って、解決できないかなというふうに思い、気になっているという感じです。
高橋先生:
なるほど。大事なテーマだと思います。そうすると、子ども以外のどんな人であっても、その人が本当に思っていることが表現できなかったりするといったあたりに関心があるんですかね。対象は子どもだけでなく、広がっているっていう理解でいいですか?
Kさん:
はい。
高橋先生:
なるほど。わかりました。Kさんが会議に出て、どんな体験をされたか聞いてもいいですか?その時にKさんは発言をされた?できなかった?どんな感じでした?
Kさん:
最初にメンバーの中で自己紹介をした時に、「この会議2回目なんです」、「帰国子女なんです」と言った人がいました。そこで立場が違うというか、なんか「あ、そうなんだ」と、なんとなく従わなきゃいけない感じを感じました。あと区の人も書記の役割ではあったんですが、参加者の発言に対してリアクションの差があり、それによって、「あ、こういう意見の方が正しいのかな、求めてるのかな」というふうに感じたりしました。
高橋先生:
Kさんは、言いたいことがあった人なのかな。
Kさん:
そうですね。考えていましたが、最終的にはグループの中でどの意見を押し出すかという際に多数決だったので。
高橋先生:
なるほど。じゃあその場ではKさんは言いたいことがある人だったし、一応言いたいことは言えた、のかな。
Kさん:
そうですね。けど結局グループで最終案を決める時に、区の人のリアクションが良かったものをしたいのかな、これを求めてるのかなみたいなところがあり、みんなそれに投票したのかなと考えたり…。
高橋先生:
そういう流れだったのね。わかりました。Kさんは言いたいことがあって、そこで言うことはできたけど、その時に言うことにためらいとかもあったわけですか?
Kさん:
うーん、そうですね。私は言ったんですけど、他の子とかは「いや、私は言わなくてもいいかな」という感じの子もいて。そういう子もちゃんと会議の場にわざわざ足を運んだし、自分の意見があって参加したんだと思うんですが、言えてないというところがやっぱり問題なのかなと思ったり。
高橋先生:
なるほど。じゃあKさんは言えたんだけど、「明らかにちょっと意見ありそうなんだけど、言わなかったのかな…」みたいな子がその場にもいた、ってことですよね。
Kさん:
はい。
高橋先生:
なるほど。Kさんがどんな体験をされたのか、どこが課題だと思っているのか、今のやりとりで私なりに理解してきました。後から参入した人のやりにくさもあるし、意見の言いにくさとか、あとは多数決の不平等さみたいな、そういうところもあるってことですよね。そうするとただ意見を言うだけじゃなくて、意見が反映されていくプロセスにも関心がおありってことですよね。
Kさん:
そうですね。確かに、目立たない子が素晴らしい意見を持っていたとしても、それはもしかしたら結局決定されないかもしれないし。その会議の題材は海外からの在住者に関連しているものだったのですが、その場で「私は帰国子女なんですけど」という人がいると、海外の経験があるから、区の人も「おぉ」とリアクションしていて。そういう人が意見を言うと、決定に近づくところもあると思うので。
高橋先生:
確かに。どういうところが問題で、どうなればいいのかな。
Kさん:
立場の違いが見えてしまったのが問題なのかなと思って。例えば二回目の参加だとか、海外にいたとか、プロフィールに左右されちゃったところがあったなと思うので、プロフィールを知らずに、ただ単純に意見を言うみたいな形だったら良かったのかなと思います。
高橋先生:
なるほど。その点がカードゲームの色に反映されてるんだよね。
Kさん:
はい。
高橋先生:
そういうロジックがすごく分かりやすいなと思っていて、カードゲームについても後で説明してもらおうと思ったんだけど、“プロフィールがわからないようにする、自分じゃなくする”っていうアイデアでしたよね。
Kさん:
そうですね。キャラクターカードみたいな感じで、自分とは別のプロフィールで意見を言うという。
高橋先生:
そのカードの立場の人として話すみたいな。カードについて、Kさんの今の体験がどんなふうに反映されたのか、Kさんの意図みたいなものを聞かせてもらってもいいかしら。
Kさん:
例えば八十代ぐらいの町の自治会長とかを引いた時には、例えばその町と昔の姿を知っていて、近所付き合いとかを大事にしてるみたいなことがわかると思うので、その立場で参加してみるというか。私が子ども会議に参加した時には、自己紹介で学校名を名乗る流れでした。私立校の子が多くて。だからある程度学校のランクや校風がお互いにわかってしまって、学校を代表して参加したわけではないのに、自分で学校を意識してしまうことになりました。そういう経験があったので、キャラクターを作ることによって、外から見た自分から自由になれるのかなと。
高橋先生:
わかります。“自分が本当に持っているプロフィールから出て、一旦いろんな立場を想定する”っていうことよね。さきほどの高齢者のおじいさんとか。じゃあ仮に「Kさんがその人になった時に、その人の立場で、あるテーマについて意見を言ってください」って言われたら、Kさんがその時に言う意見は、誰の意見なの?
Kさん:
自分の意見というよりかは、その人の立場から考える意見みたいな。
高橋先生:
うんうん。じゃあ例えば「地元に昔からいるおじいちゃまです」となった時にはKさんは「おじいちゃんもきっとこういう風だろうな」と想像して、「こんな意見あるかな」と思って言ってみるみたいな。
Kさん:
そうですね。はい。
高橋先生:
なるほど。それはKさんはできそう?
Kさん:
はい。あと今回考えたカードゲームの案にはカードが三種類あって、そのうちの一つが話すスタイルを規定するカードです。例えばジェスチャーと共に話すとか、感謝しながら話すとか、そういう制限をつくることで楽しく意見を考えられるかなと思ったりしました。そして、キャラクターを規定するカードの時に「おじいちゃんです」って言われただけではあまりわからないから、カードの下に昔からこの街に住んでて、近所付き合いとかを何より大切にしてるよとか。
高橋先生:
つまりおじいちゃんのプロフィールをもっと詳細に作り込んであるわけよね。
Kさん:
そうですね。
高橋先生:
なるほど。ゲームをやってみてどうだった?どんな感じだった?
Kさん:
どういう雰囲気で言うかというカードを取り入れたので、それはすごく面白かったし、自分じゃ普通は考えない意見とか、自分達でも予想外の意見がたくさん出たので、そこは面白かったんですが、将来的にはこれを知らない人同士で使えるような、アイスブレイクみたいにしたいと思ったので、そういう点では自分の知ってる人とは楽しくできたけれど、初めての人同士ではどうかなと。解決というよりは遊びで終わってしまったみたいなところはあります。
高橋先生:
それが三つ目の質問だよね。今のだと確かにプロフィールの影響で言えなかったり、抑制しちゃうことは解消されるのかなと思うんだけど。例えば、おじいさんになって言った発言っていうのは、“自分が言いたいことが言えてる”感じになるのかな。例えばだけど、テーマについて、おじいちゃんじゃなくても何か思うことあるよね、きっと。自分でもね。だけど、“おじいちゃんという立場”ができちゃってるじゃない?ってなった時に、どっち側で意見言うのかなって。「おじいちゃんの体で自分の意見を言いましょう」なのか、自分の意見はさておいて、「きっとおじいちゃんだったら私は思わないようなこんなことを思うかもしれないと思って、それを言ってほしい」のかっていうと、どっちが正解なのかな。
Kさん:
おじいちゃんに乗せて自分の意見を言うみたいな。
高橋先生:
なるほど。自分の意見をおじいちゃんに乗せるのね。やってみた時は難しくなかった?
Kさん:
そうですね。私達の時はあんまり難しくなくて、深く考えずにすんなりできたんですが、難易度で考えてみると、知り合い同士だったからかもしれません。結構、発想力とかが必要なところはあるなと。
高橋先生:
そうだよね。私も、なかなか難しい高度な技だなと思っていて。 でも、素の自分じゃない誰かを介すことで言えた達成感の方があるのかな。「言えました」みたいな感じがあるのかな。
Kさん:
そういうところで自分の意見を考えて言う場の雰囲気をつくることによって、自分の意見も言えるようになるのかなとかも思って。
高橋先生:
なるほど、わかりました。私は臨床心理学が専門で、いろんなトレーニングの中で、実はロールプレイというのをやるのね。ロールプレイって役取りをするんだけど、やっぱりそれって結構難しいんだよね。役の人が果たしてどんな人なのか、ちゃんと想像ができないと、「おじいちゃんとしてのプロフィールをどこまで大事にしたらいいのか」っていうところで、私だったら迷っちゃうかな、っていう気がしていて。
Kさん:
そういうふうに考えてみると、まず最初にゲームとして、アイスブレイクに使った後に、リアルな自分の意見を交換するといいのかなと思ったりしました。同じ議題だとしても、二つの方向から考えてみるというか。
高橋先生:
うんうん。Kさんが時折アイスブレイクって言葉を使ってるのが、私はすごく大事なことかなと思っていて。今“何をどう表現してもらうか”という議論をしてるけど、実はアイスブレイクを入れるかどうかっていうのは、“どのように場を作るか”っていうお話をされていることになるのね。Kさんは「複数の人間が、しかも立場が違ったり、意見が違ったりする人たちが、どうやったら建設的な議論ができるか、平等性とか公平性みたいなものが保たれながらうまくいくといいよね」ということを考えたい人なんだな、と私は今理解してるけど、大丈夫かな。
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支援ミーティングを終えて
- Kさん:
今回のお話を終えて、キャラクターカードは同じ中学生同士や知り合い同士でプレイしたから面白く感じたのではないかと感じました。実際に私が変えたかった「空気」は、初対面の人や普段は違うコミュニティで暮らす人が一緒になった場合の事を考えていたため、ステレオタイプや先入観が入ってしまう設定は嫌な思いをする人が出る可能性もあり、修正が必要な事に気が付きました。実際の深い議論をするというよりは、最初に仲良くなる・打ち解ける・他人の目線に立つという為の方法に注目したかったため、もう一つの表現方法を制限するカード(例:感謝しながら話す、結論から話す、〇〇の視点で話す)だけでも、普段の素の自分ではない体験と、自分のキャラを隠すことにつながるので、背景が違う人が集まる場ではそちらを使うだけでも十分かなと思いました。
楽しく積極的に関われる解決方法があれば、カードゲームにこだわる必要は無いのですが、年代が違う人や初対面の人が話をする場合、言葉のニュアンスが同じ意味で伝わっているかどうかにも気を付ける必要があるなと思いました。
色々とアドバイスを頂いたので、頂いたキーワードについても調べてみたいと思います。どうもありがとうございました。
- 高橋先生:
Kさんが自分自身の体験から感じた疑問を、実験という形に高めて、実際にやってみていることを知り、もうすでに立派な研究者の卵だな、と感心しました。私は心理職でもあるので、最初から答えを提供するのではなくて、まずはKさん自身が「本当のところ、私は何に疑問を持っているのか、何をどうしたいと思っているのか」を対話の中で丁寧に解きほぐすところから始めてしまいました。本当は、そこからどう研究の形にしていくのかについてもう少しお話ししたかったのですが、Kさんの関心には色んな登り口があることはわかりましたよね。まずは、「自分はどの登り口から頂上を目指したいか」から考えてみて下さい。Kさんの関心の中には私の関心も含まれているので、いつか山の頂上でばったりお会いできるよう、私も頑張ります。Kさんの今後の発展を心から楽しみにしています。
(文責:CASEER・谷垣明里)





